第39章 クッキング
「それにしても、本当にすごいよね。どうやったらこんなレシピが思いつくの」
「潜入で喫茶店のウェイターをやるって決めてから、ちょくちょく試作してた」
「はー流石、相変わらず抜かりないわ」
互いにもぐもぐと口を動かしながら、そんな他愛のない会話を続けた。
そして皿のサンドイッチが全てなくなる頃には、私のお腹は大分満たされていた。
パンでも案外お腹に溜まるもんだな。パンだけにお腹パンパンってか。
「ほら、しょうもないこと言ってないで片付け」
「あら、声に出てた」
食器を流しに入れて、テーブルを拭いて、ものの数分で片付けは終了。
「食器はいいよ、夜ご飯の時に一緒に洗うから」
「分かった」
「……ねぇ、この後はどうするの?」
徐に、ゼロの背中へ問いかけた。
「……帰るよ」
「…だよね」
何を期待しているんだ、私は。
お昼を一緒に食べられただけでも十分嬉しいのに、これ以上求めるなんて我儘にも程がある。
ゼロにだって、私にだってやらなければいけないことが沢山あるんだ。
「そんな顔しないでくれ」
俯く私の頭に、大きな手が優しくのせられる。
「……ごめん」
それでも、どうしても引き留めたくなってしまう。
「行かないで」「一緒にいたい」そんな甘美な言葉が零れそうになる。
それを必死に抑えるために、私は口を一文字に結ぶことしか出来ない。
……今までの生活に戻るだけだ。
後輩と部下に囲われて、仕事に追われて、忙しいくも充実した日々を送るだけ。それの何が嫌だって言うんだ。
いつから私は、こんなに我儘な人間になってしまったのだろうか。
「…携帯、出してくれないか」
「……え?」
突然の申し出に、思わず顔を上げた。そこには至って真面目なゼロの顔がある。
若干動揺しながらも、ポケットに入っていた携帯をパスワードを入力して開く。
はい、と言って手渡すと、ゼロは私の携帯に何かを入力し始めた。
何をされているのかいまいち理解が出来ず、首を傾げながらゼロのそれが終わるのを待った。