第39章 クッキング
無言のまま返された携帯は、連絡先アプリを開いている。
無意識的に一番下までスクロールすると、見慣れない “0” とだけ書かれた連絡先が追加されていた。
バッと顔を上げてゼロを見上げる。
「こ、これって…」
「僕の電話番号」
いや、それは分かるんだけど。
それよりも聞きたいのは、どうして頑なに教えてくれなかった連絡先を今になって教えてくれたのかということだ。
困惑している私を宥めるように、もう一度頭に大きな手がのせられた。
「これで、会いたいときに連絡できるだろ?」
お互いに。
そう言いながら、ゼロは優しく微笑んだ。
「…本当に、好きな時に電話していいの?」
「あぁ。まぁ、出られないときの方が多いかもしれないが」
それでもいい。
むしろ、ゼロの忙しさを考えたらそう簡単に電話を掛けることなんて出来ない。
でも、私の携帯の中にゼロの連絡先が存在する。
ここに電話を掛ければ声が聞ける、会うことが出来る。
その事実が、どうしようもなく嬉しかった。
「ありがとう」
最早理由なんてどうでもいい。
ゼロが近くにいてくれようとするだけで、この3年間が報われた気がした。
「じゃあ、帰るよ」
「うん。気を付けて」
そうして、来た時同様キャップにパーカー姿で帰るゼロを玄関で見送った。
1人になった部屋で、ベッドに上半身だけを預けながら携帯の連絡先アプリをもう一度眺める。
上や下にスクロールを繰り返しながら、”0” の文字が消えていないことを確認した。
うん、ちゃんとある。夢じゃない。
暖かい日差しに照らされながら、昨日から今日にかけての出来事を噛み締めるように私はゆっくりと目を閉じた。