第39章 クッキング
「ちょっと!そこの奥さん!……奥さん!」
「えっ、わ、私ですか?」
頭に三角巾をつけた、スーパーの店員さんであろう女性にそう呼び止められた。
お、奥さんて……。私まだ未婚ですけど。
ま、年齢的には結婚しててもおかしくないか。
……何だか、自分で言ってて悲しくなるな。
「これ、昨日からうちで売り出してるソーセージ!
試食してるから食べてって!!」
奥さんを訂正する前に、目の前に爪楊枝に刺さったソーセージを差し出された。あまりの押しの強さに、思わず受け取ってしまう。
「……ん、おいしい」
「でしょ?シャウ○ッセンにも負けない美味しさよ!こんなに美味しいのに、今だけ1袋の値段で2袋買えるんだから!」
うっ、また2袋の罠か……。
何とも商売上手な店員さんだ。思わず買いたくなっちゃう。
冷凍すればいけるか?
葛藤するようにうーんと唸っていると、背後から「どうしたんだ?」とゼロの声が聞こえた。その手には色んな食材が抱えられている。
「ソーセージだって」と声を掛けると、ゼロは興味深そうにホットプレートを覗いていた。
「あらまぁ!ハンサムな旦那さんね!!
ほら、旦那さんも食べて食べて」
だんっ……!!??
店員さんの言葉に面食う私とは対照的に、ゼロは「どうも」と言いながら普通にソーセージを受け取った。
いや、旦那じゃ……そう言いかけるが、押しの強い店員さんに遮られてしまう。
「お二人は新婚さん?いいわねぇ」
「いや、私たちは……
「いえ、今年で7年目なんです」
は…?
何言ってんのこの人。
「あらまぁ!随分お若いのね!」
「いえいえ、こう見えても今年で29なんですよ。
夫婦揃って若く見られるもので」
え、何普通に会話してんの?てか、7年目って何?夫婦って何?
何故息を吐くように嘘が出てくるんだこいつは。怖いわ。
「じゃあ行こうか」
店員さんとのお話を粗方終えたらしいゼロは、こちらに向き直ってそう微笑んだ。その顔は、ゼロというより安室さんという方が正しいだろう。
この変わり身はもはやホラーだよ。