第39章 クッキング
食器を捌き続ける私たちの間には、なんとも言えない気恥しい空気が流れている。
「わ、私、ポアロのハムサンドが食べたいな!」
そんな沈黙を破るように、私は声を上げた。
「え?ハムサンド?」
「ほ、ほら、前に作り方教えてくれるって話だったけど中々機会がなかったじゃない?丁度いいし、今日教えてよ!」
「ね!」と気恥ずかしさを誤魔化すように詰め寄ると、途端にぷっと笑いだすゼロ。
「…なに笑ってるのよ」
「いや、別に?」
ゼロはゴホンと喉を鳴らし、こちらに向き直った。
「それなら、また買い物に行く必要があるな」
「あ、なら今度は私が行ってくるよ。さっき行ってもらったし」
気遣いのつもりで言ったのに、私の言葉を聞いたゼロはこれまた不満げな顔を浮かべる。何故そんな顔をされたのか分からなくて、真意を問うように首を傾げた。
「……“一緒”じゃないのか」
唇を尖らせながら放たれたその言葉があまりに予想外で、呆気に取られる。
……やっぱり、変だよ。今日のゼロ。
「……い、一緒に、行きますか」
そんな一言に狼狽えながら、でも少しだけ嬉しいと思ってしまう私も、変だ。
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個人的な買い物もついでにしたかったため、今度はコンビニではなくスーパーへと向かった。そう、以前沖矢さんに遭遇した米花町のスーパーである。
この頃米花町に沢山知り合いができたから沖矢さんに限らず誰かにばったり会ってしまうのではないかと危惧していた私だが、そもそもスーパーにお客さんが少なかったのでそれは杞憂に終わりそうだ。
ま、今は平日の真昼間だし、みんな学校なり仕事なりあるだろうからそりゃそうか。
「んー…、卵2パックで400円か……」
明日からまた仕事だから、今卵なんて買ったら絶対に腐らせてしまう。
でも、食品価格が高騰している中でこんなの見せられちゃ買いたくなっちゃうわ。いや、我慢だ我慢。今まで幾度と誘惑に負けて、あられも無い姿に成り果てた卵を思い出すんだ。
そうして自分を律し、生鮮食品売り場を抜けていつも通りカップ麺やらバー食品やらのコーナーへと足を進める。
ちなみにゼロにはハムサンドの材料を取ってきてもらっている。日用品も買う予定のため、申し訳ないが別行動中だ。