第38章 執行人とその後
「た、ただいま…」
そう言いながらも、何故ゼロがここにいるのかはてなマークでいっぱいの私の頭。
それに答えるかのように、ゼロが手に持っていた大きめのコンビニのビニール袋を掲げた。
「…その、一緒に飲まないか?」
数週間ぶりの我が家は、これと言って代り映えのしないいつも通りのものだった。
「適当にくつろいで。
あ、今うち何もないよ?しばらく家空けてたから冷蔵庫も空だし」
「大丈夫、色々買ってきたから。
キッチン借りるぞ」
「ん、どーぞ」
ガサゴソと袋から色々出しているゼロを横目に、私はジャケットを放ってローテーブルの傍にドカッと座った。
ぐーっと伸びをして、凝り固まった肩を解していく。
「ゼロから飲もうなんて珍しいよね。どういう風の吹き回し?」
「……いや、まぁ、色々とな」
何だか含みのある言い方。
ま、別になんでもいいけど。
「てか、最後にゼロと飲んだのっていつだっけ?」
「多分、卒業式以来」
「えっ!?まじ!?はーじゃあ7年ぶりってことか。
伊達と松田とはよく飲みに行ってたからなー。って言っても、3か月に1回集まれたらいいほうだったけどさ」
そんな他愛の無い話を続けながら、キッチンに立つゼロを眺めていた。その手際の良さは、やはり喫茶店のバイトで培ったものか。
その後、ものの数分でゼロがいくつかのつまみをローテーブルへと並べていく。
「え、この短時間でこんなに作ったの?」
「どれも簡単なものだけどな」
「いや、だとしても凄すぎでしょ。
ちょっと前までは包丁だってちゃんと握れなかったのに」
「おいそれは昔の話だろ」
そう言いながら、ゼロは袋に入っていた缶ビールを取り出して私の向かいのローテーブルに腰掛けた。2つ持っているうちの片方を私に差し出す。
「はい。
どうせビールが良いって言うと思ったから、つまみもそれに合うように作った」
「おー流石!分かってるねぇ」
差し出された缶ビールを受け取って、プシュッと耳心地のいい音を鳴らしながらプルタブを立てた。
「それじゃ、乾杯」
缶と缶がぶつかる音が響く。
そうして、私はその中身を一気に呷った。