第38章 執行人とその後
翌日からは、やはり目が回る忙しさだった。
今回の事件、その全ての犯人は毛利さんの担当検事の“日下部誠検事”であった。私の読み通り、日下部検事は犯行を1年前の『NAZU不正アクセス事件』の捜査資料になぞらえたそうだ。
取り調べでは動機を「犯罪の手引書のような警察の捜査資料に感化された」と話しているそうだが、それが真実なのかは我々は知る由もない。
きっと何か信念のようなものがあったとも思えるが、だとしてもそれが世間に晒されることは一切ないだろう。
……なんたって、今回の事件は公安が握っているのだから。
はくちょうのカプセルは、あの後丸一日かけて無事東京湾から回収された。今はNAZUの日本支部研究所でその中身の解析が行われているらしい。
東京サミットは、各国からの指摘は多少あったものの予定通り残りの日数も実施。そしてつい昨日、全ての会議が無事終了した。
私は元の自分の部署に戻り、この数日間は各国への警備説明や都度の状況報告に追われていた。
幾台もある電話は常にフル稼働。報告書では英語は勿論、フランス語、ドイツ語、イタリア語等々様々な言語が飛び交っている。正直、とっくに頭は限界突破だ。
部署の人間全員の頭から煙が見える。
諸外国からの不安の声は多数であったが、それと同じくらい国内での批判も散々だった。
だが、それも一週間が過ぎればだんだんとその数は減っていく。
そして2週間ほどが経過し、私はようやく自宅に帰ることが出来た。ついでに、2日間の休暇もゲットした。
あーーお酒が飲みたい。
思いっきり酒を呷って、満足いくまで寝倒したい。
そんなことを思いながら、多大な疲労を背負って帰路に就いた。
「……は?」
やっとの思いで辿り着いた思えば、私の家の玄関の前に人影が1つ。
こんな時間にキャップとパーカーに身を包んだ人が1人で立っているなんて、最早不審人物以外の何物でもない。通報してやろうか。
その気になればすぐに制圧できるぞという心持ちで恐る恐る近づいていくと、私の気配に気づいたのかその人物が顔をあげた。
「え…、ちょ、なんでいんの…!?」
「遅かったな。おかえり」
キャップからはみ出している金髪は、こんな夜更けでも煌びやかに目立っていた。