第38章 執行人とその後
「……わかった、帰る」
小さな声でそう零すと、ゼロは安心したように息を吐いた。
「…でも、約束して。
ゼロもちゃんと家に帰って。
ちゃんとご飯食べて、ちゃんとお風呂に入って、ちゃんと寝て、ちゃんとその怪我治して」
私だって、あなたが心配なの。
出来るならずっと近くであなたを助けたい。
それが叶わないなら、せめて、もっと自分を大事にしてほしい。
あなたは私の大切な人だから。
そう思いを込めて、強く腕を回した。
「…分かった、約束する」
その返事を聞けた私は、ゆっくりとその腕を解いた。
ゼロの顔は……見上げることは出来なかった。
見たら、まだ一緒にいたいと我儘を言ってしまうだろうから。
私は俯いたままゼロから離れて、そのまま青柳の背後に駐車してある車の後部座席へと乗り込む。
ーー……きっと、またしばらく会えなくなるんだろうな。
そんなどうしようもない寂しさを抱えながら、私は静かに目を閉じた。
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「青柳君、今日知ったことは…
「安心してください。
あなたがただの喫茶店の店員じゃなく、警察庁の人間だということは他言しませんので」
その正体を知っても尚、怖気づくことなく凛とした態度の青柳に降谷は感心していた。そして同時に、が彼を評価する理由が分かった気がした。
「…君なら安心だ。を頼む」
降谷の言葉に、青柳がピクリと反応した。
「……さんは俺の大切な上司です。
あなたに頼まれようが頼まれなかろうが関係ない。あの人を支えるのが、俺の仕事です。言われるまでもない。
それと、もしさんを泣かせたら、その時は俺がもらいます。相手があなたであっても容赦はしない。
俺が、さんの傍にいる」
そして最後に「失礼します」と言い残して、青柳はを乗せた車ごと去っていった。
降谷の頭の中で、たった今青柳に言われた言葉が木霊する。
「……風見。すぐに家に帰りたい、送ってくれるか」
「は、はい。もちろんです」
青柳からの宣戦布告は、降谷に決断をさせるには十二分であった。