第38章 執行人とその後
「じゃあ風見、案内を頼む」
「はい」
そう言って、ゼロは私を抱えながら立ち上がった。
抱きしめている腕を解きたくはなかったが、流石にこのままでは歩くことさえままならないので仕方がなく腕を緩める。
さっきまで感じていた温もりや心音が離れていくことに寂しさを覚えていると、それに気付いたのかゼロが優しく私の手を取った。
怪我をしている片腕を庇いたいだろうに、それでも足元が覚束ない私に気を使いながら先導する風見さんの後に付いていく。私は、そうやって手を引いて前を歩いてくれるゼロの背中を見ながら必死に足を動かした。
「足元、気を付けて下さい」
風見さんが車のドアを開けてくれたので、繋いだ手はそのままに2人で後部座席に乗り込む。
そのまま車は、風見さんの運転で警察病院へと出発した。
心地いい車の揺れを感じながら、私は隣に座るゼロの肩に頭を預ける。そうすれば、少しだけさっきまでの温もりを取り戻した気がするから。
すると、ゼロが手を繋ぎ直してきた。
ただ握っていただけの手を、今度は指まで絡めて更に密着度が増している。心なしか握られる力も強くなった。
……私よりも大きくて、骨ばっていて、たくさん怪我の跡がある手。
少し冷たいその手を、私も強く握り返した。
絡み合う2つの手が、窓の先で等間隔に設置された街頭に照らされている。
そんな姿を眺めながら、私は静かに目を閉じた。
警察病院に到着してからも、私はゼロの傍から離れようとしなかった。
流石に手当てをする病室へは入れてもらえなかったが、その代わりにドアの前に立って出てくるのを待っている。
傍から見たら完全に怪しい人間だろうが、幸い今は深夜を回っている。それにここは警察病院の中でも限られた人間しか入れない場所だ。人目を気にする必要は無い。
「…座っていたらどうだ」
風見さんが気を使って待合室のソファへと案内しようとしてくれたが、首を振って断った。
確かに私の足は相変わらず万全ではないが、それでも座って待っているわけにはいかない。
……今は少しだって、傍を離れたくない。
そんな私の様子を見て風見さんは小さな溜息をつくと、私の横に立って一緒にゼロのことを待ってくれた。