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【名探偵コナン】sangría

第37章 ゼロの



その瞬間、持ち場に向かおうとしていた私の足は、それとは逆方向に向いた。そうしてゆっくりと、あの建設中のビルへ向けて走り出した。


ーー……もし、今回も同じだったら?
花火を利用してカプセルの軌道をずらすために、ビルから車ごと身を投げていたとしたら?
避難していた大勢の人間を守るために、自分の命を犠牲にしていたら?


考えれば考えるほど、どんどん足が速まっていった。

正直、タワーからビルまでどれ程遠いのかなんて分からない。走って行ける距離なのか、どれだけ時間がかかるのか、そんなことは一切頭に無かった。
どうか、私の考えすぎでありますようにと強く願って、ただただ一心不乱にあの白い物体が落ちたであろう場所へと走り続けた。
















はぁ、はぁ、はぁ…

と、自分の乱れた呼吸の音だけが聞こえてくる。
もう、汗でスーツも髪もぐしょぐしょだ。足も、心なしか力が入らなくなってきている。
自分がどれだけ走ったのかなんて、もう分からなかった。

やっとの思いでたどり着いたこの場所には、建設中の建物が多くあり照明らしい照明はまだ設置されていない。遠くにあるカジノタワーとその周りの商業施設の煌びやかな明かりだけが光源となって、僅かに地面を照らしていた。

そんな薄暗い場所で目を凝らし、辺りを見回しながら慎重に進んでいく。
多分、あの物体が落下するならこの辺りだろう。
ここに何もなければ、あれは私の見間違いだった、そういう結論になる。

だから、「お願いだから何も見つからないで欲しい」というちぐはぐな思いを胸にひたすら周辺を探し回った。





ーー……だが、こういう思いは届かないのが世の摂理。

建物の陰にあった物、それは間違いなく私の知っている車だった。いや、車“だったもの”と言った方が正しいか。
あの眩しいほどに白い車体は、もはや見る影もない。
フロントガラスはバリバリに割れ、ホイールが潰れたタイヤは全てパンクしており、扉ははずれて離れた所にボロボロな姿で落ちている。


それを見つけた瞬間、息が止まった。


……この中に、あいつがいるの…?

呼吸も瞬きも出来ないのに、心臓だけがドクドクとその存在を主張している。
声も出ず、足も動かせず、涙が零れることもない。
私はただ、その鉄の塊を見つめることしか出来なかった。
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