第37章 ゼロの
その後、これまた奇跡的に故障していなかったエレベーターを使用して展望台にいた全員が下に降りることが出来た。
だが、相変わらず地上は避難民でごった返している。
すぐさま応援が駆け付け、2本の橋の交通整備及び警視庁周辺からの避難民たちの輸送が迅速に行われていた。
カプセルはというと、カジノタワーを掠めた後東京湾に落下。回収作業も人員輸送が完了次第行われる予定だ。
そんなこんなで沢山の人がせかせかと動いている中、私はあられもない姿になってしまったタワーを見上げていた。
ーー…さっきのあの花火は、一体何だったんだろう。
確か、以前にも似たようなことがあったな。確か、東都水族館での事件の時だ。あの時も、観覧車の近くで花火が上がっていた。それも一発だけ。
誰が、どうやって打ち上げたのかは分からない。でもあの花火のお陰でカプセルの位置が微妙にずれ、結果的に大勢の人間が救われたんだ。
それともう1つ気になるのは、花火の前に見えた白い物体。
……何だか少し、私の知っている白い車に似ていた気がしたけど、きっと気のせいだ。
うん、あれがFDなわけない。
そもそも一瞬しか見えなかったんだから、あれが車かどうかだって分からないし。私の見間違いで、本当は車なんかじゃなくもっと別の大きな白い塊だったかもしれない。きっとそうに違いない。
でなきゃ、あんな高さから落下して中に乗ってる人が無事で済むはずないんだから。
あれは私の知る車なんかじゃなかった。
絶対に。
そうして私は考えるのをやめた。
早く持ち場について、他の警察官と同様避難民の誘導をしなくてはならない。こんな所で突っ立っている暇なんてないんだから。
そう思って一歩踏み出した時、私の頭にある光景がフラッシュバックしてきた。
____目の前で、大観覧車に潰されるクレーン車。自分の命と引き換えに大勢の人間の命を救った、彼女の最後の姿___
たった数か月前の、あの大事件。その裏で1人の人間が犠牲になったことは、殆どの人間は知る由もない。