第37章 ゼロの
「何でまた下に降りるんだよ?ここが安全だって言うからわざわざ避難してきたのに」
「下にも人がいっぱいなんでしょう?だったら、ここにいる方がいいんじゃないの?」
「たくっ、またどっか連れてかれんのかよ!!」
混乱と不安の声は次第に大きくなっていき、全員がこの状況と警察の対応への不信感に包まれていた。
そんな人々へ向けて、私は再び口を開く。
「落ち着いて聞いて下さい。
先ほど、カプセルの軌道が変わり落下予測地点が警視庁からここエッジ・オブ・オーシャンに変更されたと報告がありました」
えっ!?うそでしょ!?
そんな声で溢れかえった。そのざわめきが、余計にこの場の不安を煽っていく。
「焦らず、ゆっくり、落ち着いて、順番にエレベーターに乗ってください。必ず全員下に降りれますから!」
しかし申し訳ないが、パニックを起こされている暇はない。
1度にエレベーターに乗れる人数にも限りがあるんだ。迅速に動いてもらいたいところである。
すると、外で警報が大きく鳴り出した。
くそっ、もう時間が無い…!!
エレベーターへの誘導を行いながら、外の様子を見やった。
ーー……え、何あれ…?
一瞬、白い何か。遠くてよく見えないが、車のようなものが建設中のビルから飛び出してきた気がした。
その途端、ドンッ!!!という破裂音と共に窓の外で大きな花火が上がった。展望台中が一気にカラフルな明かりに照らされる。
そのあまりの眩しさに、私は方腕で目をかばった。
その明かりと破裂音に驚いた人々は、順番なんてそっちのけで我先にとエレベーターに駆け寄りだす。もう誘導なんて意味をなしていない無秩序の状態だ。
そして間髪入れずにガッ!!!という鈍い音が鳴り響いた。どうやらカプセルがタワーを掠めたようだ。その衝撃で展望台内は大きく揺れる。
そしてタワーと地面を突っ張っていた巨大な金属製の縄が切れ、支えを無くしたタワーは大きく傾いた。
倒れるっ!!!!
誰もがそう思ったとき、奇跡的にタワーはバランスを取り戻して倒れることなくその姿を保ったのだった。