第37章 ゼロの
警視庁の1キロ圏内というと、各省庁、公園、ホテルも多く所在しており避難人員はざっと計算しておよそ15万人にも及ぶ。
それだけの数の避難民が一堂に会すわけにもいかないので、いくつかに分けて避難は行われることになった。
「これから、およそ3万人が東京湾の埋立地にある『エッジ・オブ・オーシャン』へと避難します」
1台に20人程が乗車可能なこの人員輸送車を何台も使用して、私たちは現在エッジ・オブ・オーシャンに繋がる橋を渡っている。
そう、今向かっている場所はまさに東京サミットが行われる予定だったあの場所だ。国際会議場は爆破されてしまったものの、エッジ・オブ・オーシャンは他にも多数の施設を有している広大な土地。捨て置くには勿体ない。
その中でも、特段大きな施設である『カジノタワー』に私たちは避難をする。灯台の役割も果たしているそれは大型ショッピングモールになっていて、3万人が避難するにはうってつけの場所というわけだ。
「焦らず、ゆっくり避難をしてください!」
メガホンを通したそんな声があちこちから聞こえてくる。
輸送車が順々にエッジ・オブ・オーシャンへと到着し、人々がカジノタワー内へと入っていく。
15万人の内の3万とはいっても、やはり相当な人数であることに変わりはない。少しの焦りやパニックが、大きな二次被害を生むことだってある。
我々警察官は、それぞれメガホンを持って避難誘導に徹していた。
その中でも私は、真っ先にカジノタワーの最上階に行き展望台での避難誘導に当たっている。
ブーブー
展望台の避難は大方完了したであろうその時、携帯が鳴った。見ると、画面には佐藤の文字が。
恐らく、避難状況の確認だろう。
「はい。展望台は避難完了、そっちは?」
『さん大変です!!
たった今政府から報告があったそうなんですが、原因不明の爆発によりカプセルの落下位置が変わって、あと数分でここに落ちてくるみたいです!!!』
「は、はぁ!?」
『しかも、情報が錯綜して一般車両がこっちに避難して来ているらしくて、2本しかない橋が大渋滞です!!』