第36章 女の秘密
「降谷くんともさっさと仲直りしろよ」
その言葉を聞いて、そっぽを向いていた私はバッと沖矢さんの方へと向き直った。
「な、何で知ってるんですか!?」
「いや、見てればすぐにわかったぞ。寧ろあれで隠しているつもりだったのか」
い、いや、別に隠そうとしてたわけじゃないですけど。
「……そ、そんなに分かりやすかったですか?」
「あぁ、俺からすれば一目瞭然だったよ。
何が原因か知らんが、すれ違う時間は短いに越したことはないぞ」
そんなの分かってる。こっちだって好きで喧嘩してるわけじゃないんだから。
「ていうかそもそも私たちが喧嘩した原因、赤井さんなんですけど」
「…俺か?」
そうだ完全に忘れてた。
元々私はあいつと赤井さんの関係について聞きたかったんだ。
話がズレにズレまくったせいで1番最初の本来の目的を見失うところだった。
「ずっと聞きたかったんですけど、ゼ……降谷と赤井さんってどういう関係なんですか?」
「…俺はそういう趣味はないぞ」
「あ、いや、そういう意味じゃなくて!
あいつ、赤井さんのことになると妙に突っかかってくるんですよ。ただ同じ組織に潜入してたってだけじゃなくて、2人の間に他にも何かあったのかなって思いまして」
何の気なしに質問すると私とは対照的に、沖矢さんは神妙な顔で前を向いたまま口を噤んだ。
沖矢さんの口からすぐに答えが聞けるものだと勝手に思っていたが、そうもいかないらしい。
何かを考えているのか、はたまた私には言う気がないのかは分からないが、沖矢さんはしばらく黙り込んでいる。
私はただ、そんな沖矢さんが次に口を開くまでその横顔を見つめていた。
「……言わなくて済むならば、言いたくなかった」
少し長かった沈黙を破ったのは、赤信号で車が止まった時だった。
沖矢さんはゆっくりとこちらに顔を向けて、片方の翠眼を開く。
「どうやら俺は、今更嫌われるのが怖いらしい」
切れ長な目から覗くそれは、今までに幾度か見た事のある悲しげな緑だった。
その瞳に見つめられると、私は何も言えなくなってしまう。