第36章 女の秘密
「いてっ」
唐突に沖矢さんに眉間部分を小突かれた。それも結構強めに。
「シワが寄ってるぞ」
そう言いながらも、顔はこちらに向けず前を向いたまま運転している沖矢さん。どこに目がついているんだか。
そうだった。今はあのホールからの帰り道で、私は沖矢さんの車で自宅まで送ってもらっているんだ。
ちなみに車には二人しかいないので沖矢さんの口調は完全に赤井さんになっている。
「今俺の手に拳銃があったら即死だな」
「……日本は持ってるだけで犯罪ですってば」
「物の喩えだろう。
そんなに無防備に何を悩んでいるんだ。やはりトイレで何かあったんじゃないか?」
「…いや、別に……」
流石、鋭い。
だがトイレで何も起こるわけが無いと高を括った手前、あんなことが起こったと素直に言うなんて出来ない。それに心配だから着いていくとまで言うほど過保護なこの人に言ったら、それこそ大事になりかねないし。
「あの…ジョディって赤井さんのこと知ってるんですよね?生きてることとか、沖矢昴に変装して生活してることとか」
「随分と突然だな。
あぁ。に伝えたあの日と、それからその翌日に全て話したよ。もちろんキャメルにもな」
「そうですか」
そりゃ伝えているか。もう隠す意味もないだろうし。
「ジョディ、何か言ってましたか?」
「何かとは?」
「…私のこととか、他にも色々……」
「あー、確か言っていたな」
「っ!!な、なんて…?」
「知りたいか?」
「はいもちろん!!」
「……教えん」
ムッ…と音が出るかと思うほど、私は眉間に一層皺を寄せて唇を突き出した。
え、何この人。こんなに性格悪かったっけ。
「何があったのかは粗方聞いている。
ジョディについて知りたいなら、俺を介さず自分で聞くんだな」
「そ、そんなの分かってますけど……」
出来たらやってるってーの。
「おい、まさかあいつがに対して怒ってるとでも思っているのか?」
「…違うんですか?」
私の言葉を聞くと、沖矢さんはこれでもかと盛大な溜息をついた。