第35章 新曲
『ー…A secret makes a woman woman…』
その声は先程までの梓さんの声と全然違っていて、もっとずっと妖艶で、ミステリアスで、引き込まれてしまうようなそんな声だった。
まるで魔法にかけられたかのように微動だにしない私を見てふふ、と笑みを零すと、彼女はそのまま去っていった。
再び1人になった女子トイレで、足に力が入らなくなってそのままヘナヘナと座り込んでしまう。
ーー……A secret makes a woman woman.
直訳すると『秘密は女を女にする』
私は、この言葉に聞き覚えがあった。
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「遅かったですね」
「そう?」
ホール前のパーキングに駐車されている白いスポーツカー。
その助手席に女が座ると、車はホールを後にした。
「今日、なんで急に梓さんに変装してきたんです?
未発表の歌詞の内容を調べるくらい僕1人で出来ましたし、それに結局組織とは何の関係もありませんでしたよね」
「あなたが彼女たちと共にここへ来るって聞いて不安になったの。私との約束を守ってくれるかどうかがね」
そう言いながら、女はベリッという音を鳴らして首からマスクを剥がした。剥がしたマスクはおざなりに後部座席へと投げられる。
「あぁ、何があってもあの2人に危害は加えないっていうあれですね?」
「えぇ。
それに、今日あなたについてきた甲斐はあったわ」
「ほう?あなたの興味を唆る何かがあったようには思えませんでしたけど」
「………」
女が名前を発すると、運転をする男は微かに肩を震わせた。
「あの子、本当に面白いわ。揶揄い甲斐があるって言うか、いじめたくなっちゃう。
それに相変わらずのあの洞察力と推理力。日本の警察に置いておくのがもったいないわね」
女の話を、男は黙って聞いていた。いや、何も言うことが出来なかった。