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【名探偵コナン】sangría

第35章 新曲



ちなみに何故『ASACA』の“カ”が“CA”だったのかと言うと、波土さんが妊娠のことを聞いたのが徹夜明けの朝カフェだったから女の子なら名前は朝香、アルファベットで書くなら“Cafe”の“CA”を取って『ASACA』にしようと決めていたらしい。

そう、組織とはなんの関係がなかったのだ。
となれば、私達がここに長居する理由は無い。



「事件も無事解決しましたし、早く帰りましょう」

「あ、ちょっと待っててください。ちゃちゃっとお手洗いに行ってきます」


そう言いながら小走りでトイレへ向かおうとすると、何食わぬ顔で沖矢さんがついてきた。


「……え、トイレにまでついてくるんですか?」

「えぇ。心配ですからね」

「いや、あの、流石にトイレは1人で行かせてください」


若干納得していない沖矢さんだが、そんなのお構い無しに1人でトイレへ向かった。

全く、本当にこの人は過保護なんだから。心配しなくても、トイレじゃ何も起きません。





















蛇口を捻らなくともセンサーにより自動で水が出てくる手洗器で手を洗う。私以外誰もいなかったこの女子トイレでは、ジャーという水音だけが響いていた。

結局組織に関する情報はゼロ。事件にも巻き込まれたし、ぶっちゃけ来るだけ損だった訳か。

私は鏡に映る自分を見ながらはぁ、と溜息をついた。




「あら、溜息の多い女は幸せを逃すわよ」



突然の声に驚いてバッと振り向く。
そこには、壁に寄りかかって腕組みをしている梓さん……偽梓さんが立っていた。

鏡の死角になっていて全然気が付かなかった。てか、この人気配無さすぎ。本当に何者だよ。



「そんなにブルブル震えないでくれる?別に取って食ってやろうと思ってるわけじゃないんだから」


やっぱり顔と声は梓さんなのに、立ち居振る舞いや纏う雰囲気が全然違う。もう私に対して隠す気はさらさらないようだ。


「………何の用ですか」

「挨拶よ挨拶。あなたのお陰で面白いものが見れたから」


私のお陰で面白いものが見れた…?
一体何を言っているんだ。


「お礼に、あなたにいい事教えてあげる」


そう言いながら彼女はゆっくりと私に近づいてくる。
震えのせいで避けることも後ずさることも出来ない私の耳に、口元を寄せて呟いた。
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