第35章 新曲
「まさか、彼は自分で…」
「はい。波土さんは自分で首を吊り、それを見つけた円城さんが殺人に偽装したというわけです」
私の言葉に一同は騒然としていた。まさか波土さんが自ら命を絶ったとは思わなかったのだろう。そして、何故円城さんは自殺を殺人に偽装し、やってもいない罪を被ろうとしたのか。
その時、布施さんが何か思い出したような顔をした。
「……まさか、この前話したあのことを気に病んで…」
「ほほう、詳しく教えて頂けますかな」
目暮警部に話そうとする布施さんを止めるかのように円城さんは「布施さん!!」と叫んだ。だが、彼は構わず口を開く。
「実は17年前、彼女は波土の子をお腹に宿していたんです。産まれてくる子のためだと言って、デビューしたての波土はスタジオに篭って作曲し続けていました。連日の徹夜で死んでしまうと思うくらいに。それを止めに来た彼女がスタジオ前で倒れ、お腹の子を流産。だから、病院で彼女に頼まれたんです。このことは波土に黙っていてくれとね」
そうか、その時産まれてくる子のために作った曲が『ASACA』だったから歌詞が付けられず17年間お蔵入りになっていたということか。しかし、事情を知った波土さんは責任を感じ子供のために歌詞を書き発表しようとするも、どうしても歌詞が書けずに“ゴメンな”というメッセージを残して死を選んだ。
「しかし、何故他殺に見せかける必要が?」
「……元カノの子供のせいで彼が自殺したなんて、彼の家族に知られたら申し訳ないと思って。
だから、彼が送ってきた“あばよ”っていうメールの送信履歴が入った彼の携帯をポケットから抜き取って、彼を、天高く…」
そう話しながら、円城さんは静かに涙を流していた。
「フンっ、死んでも尚女を泣かせるなんてバカな男だ」
「お、お願いよ!このことは記事にしないで!」
「俺は何年も波土を追ってきたんだ。来る日も来る日も地べたに這いずり回ってネタ探して、それでやっと掴んだ大ネタが波土の一大スキャンダルとはな」
「お願い……お願いよ…!!」
「俺だって波土のことは誰よりも分かってるつもりだ。
頼まれたって書かねぇよ。ロックンローラーに浪花節は似合わねぇからな」
こうして、悲しき過去への思いが渦巻くこの事件は終幕したのだった。