第4章 青い夏
「今日、青柳さんは岩場かどこかに行きましたか?」
「は、はい。投げたビーチボールが飛んでいっちゃって、それを取りにあそこの岩場へ」
「ビンゴだな」
そうなれば、事態は急を要する
この時期、干潮時の岩場には毒を持つ爬虫類が好んで生息しており、最近は海水浴場でのウミヘビの目撃が多く報告されているため、何も知らない観光客が被害を受けることが懸念されていた。
ウミヘビは神経系の毒を持ち、毒性はコブラの数十倍とも言われている。
痛みは少ないが、噛まれてから30分前後で呼吸困難や血圧低下、全身麻痺の症状が見られ、最悪の場合死に至るという危険な生物である。
佐々木さんからの話と青柳さんの様子を見るに、噛まれてからそれなりの時間が経っていることが伺える。
急いで処置を行わなければ本当に危険な状態になってしまうだろう。
「紅茶だ!早くアイスティーを持ってきてくれ!!」
ゼロがそう叫んだ
アイスティー?一体何に…
「そうか!タンニン!!」
紅茶などの渋味のある飲み物には、ポリフェノールの一種であるタンニンが多く含まれている。
タンニンには毒を中和させる作用があるため、ウミヘビやサソリ、クラゲなどの毒を持つ生物に襲われた際、傷口をタンニンを含む液体で洗うのが最善の応急措置とされているのだ。
確か、さっき萩と松田が買ってきた飲み物の中にアイスティーもあったはず
「よく分かんねえが、とにかくアイスティーを取ってくればいいんだな」
そう言って松田が走り出した
「お待たせ。レスキュー連れてきたぜ」
その後すぐに萩がレスキューと共に戻ってきた
「レスキュー隊の者です。状況は?」
「倒れている男性、名前は青柳拓真さん。20代前半で、友人2人で海水浴に来ていたそうです」
「友人の証言と症状から見るに、恐らくウミヘビに噛まれたものと思われます。
今、僕らの友人がアイスティーを持ってきているところです。
紅茶に含まれるタンニンで毒の中和を行おうと」
「適切な処置ですね。ここまでの対応感謝します。
後は我々に任せてください」
そうして、松田が持ってきたアイスティーで傷口を洗い、毒の絞り出しが行われた。
ほどなくしてヒロが呼んだ救急車が到着し、青柳さんは佐々木さん付き添いのもと、近くの病院へ緊急搬送された。