第35章 新曲
どうやらコナンくんは、鑑識が落とした証拠品を拾っている最中にそれに気が付いたようだ。つくづく彼の観察眼には感心させられる。
「なるほどな。美人マネージャーさんの波土への思いは、17年の時を経て怨恨となったわけか」
「おい、勝手なことを言うな!まだ彼女がやったと決まったわけじゃ」
「…サークルレンズ」
コナンくんの一言で、梶谷さんと布施さんの2人は黙り込んだ。
「マネージャーさんなら気付いてるよね。波土さんが瞳を大きく見せるためにサークルレンズをしてたの」
「え、えぇ」
「波土さんの免許証の写真と今日雑誌記者のおじさんが撮った写真を比べたら、僕にもわかったよ。
その片方のレンズが、マネージャーさんの背中についてるよ」
そう、先程円城さんの背中でキラリと光った物はサークルレンズの片割れだったのだ。
波土さんはサークルレンズで瞳を大きく見せることによって、強面の印象を和らげていた。だから免許証と最近取られた写真で顔の印象が変わって見えたのだ。私も、コナンくんがあんなことを鑑識に聞くまでは全く気づかなかったが。
「なるほど、彼を吊り上げた時に運悪くあなたの服に落ちたんでしょうな。
証拠は十分ですな。後は署の方で」
「ま、待ってくれ!本当にあなたが…?
17年間支え続けた彼を何故殺害しなきゃならなかったんだ。答えてくれ!」
目暮警部に連行されそうになる円城さんを布施さんが引き止めた。だが、円城さんは黙って俯いたまま答えようとしない。
「それはいくら聞いても答えられませんよ。だって、円城さんは波土さんを殺害していないんですから」
「っ…!」
「ど、どういうことだねくん?」
「もう片方のサークルレンズがあった場所、それはステージの袖に放置されていたパイプ椅子の座面の裏です。つまり、吊られた波土さんの足元にその椅子は倒れていたということ。
さらに付け加えれば、タコ糸が結び付けられた野球のボール。あれはタコ糸のもう片方の先をロープの先端に結び、ボールを投げて天井のバーにタコ糸を通してそこからロープをバーに渡すために使った物。多分、円城さんはあのバーを越すほどボールを高くは投げられないと思います。高校時代、野球部で強肩だった波土さんなら別ですけどね。
そして波土さんの胸ポケットに直筆のメモが入っていたという事は…」