第35章 新曲
「こ、これは一体どういう事だね!?」
「“滑車の原理”です。
ロープの途中に作った小さな輪が滑車の役目を果たし、1つの輪ごとに2倍、4倍、8倍の力でロープを引くことが出来るんですよ。実際は滑車ではなくロープの輪ですから摩擦の影響で8倍とはいきませんが、軽くて滑りのいいロープを使えば園子さんでも高木刑事を吊り上げられる」
目暮警部の驚きに沖矢さんが淡々と答えた。
そうして、これまた順番とでも言わんばかりに安室さんが口を開く。
「つまり、犯人は複数の人間ではなく1人で波土さんを吊り上げたということなんです。
そして、これは輸送結びと言って運送業者が積荷を固定する時に使うロープの結び方。そう、波土さんを吊り上げた犯人として1番疑わしいのは若い頃運送会社でバイトをしていたという波土さんのマネージャー。
円城佳苗さん、あなたと言うことになりますが?」
安室さんの最後の一言に、他の全員がどよめいた。
「しかし吊り上げたはいいが、どうやってロープを客席に結ぶんだね?」
「あぁ、それは簡単ですよ目暮警部。吊り上げた後ロープの先を近くの客席に縛って一旦固定し、上から来ているロープの下の方に針金をねじ込む。その針金で上から来ているロープを固定してしまえば、後は余分なロープを解き客席に結び直して針金を抜くだけですから。輸送結びのいい所はどこにも結び目を作らないので解きやすい点です。しかし、真新しいロープならそれをやった跡がロープに残ってしまう。だからロープを客席に結び直した後、余った部分を工具箱に入っていたカッターで切って束ねてステージの袖に工具箱と一緒に置いたんですよね?円城さん」
私が彼女に向かってそう言うと、円城さんは何も言えない様子で俯く。
そんな円城さんを庇うように、布施さんが前へ出た。
「おいおい、いくら彼女が昔そういうバイトをやってたからってそれだけで犯人と決めつけるのは…!」
「足の大きさだよ」
「あ、足…?」
「運送業者の人ってロープを手と肘に引っ掛けてクルクル巻いて束ねるけど、巻いたロープの内側って大体束ねた人の足の大きさくらいなんだ。肘から手首までの長さがその人の足の大きさだからね。
現場にあったロープも蘭姉ちゃんの足の大きさくらいで束ねられていたから、だから小柄なマネージャーさんが束ねたロープなんじゃないかなって思ったんだ」
