第35章 新曲
「ねぇ蘭、波土さんって最近イメージ変わったよね」
「うん、前よりソフトになった感じ?」
「え、変わったってどの辺が?」
「どこって言われると難しいですけど、何となく印象が」
「うーん、顔かなぁ?」
私が彼をテレビで見たのは結構古い記憶だったから、彼なりに何か努力をしたのかもしれない。
「そういや、波土が整形したって噂もあったねぇ?最も、そいつは波土が高校を卒業した頃の話だったがな」
「前にも言ったでしょ、そんなのデマだって!だってその頃はお金が無くて、私も彼も毎日運送会社でバイトしてミュージシャンを続けるお金を稼いでたんだから!」
「なのに波土は、苦労を共にしたあんたを捨てて別の女と結婚しちまったんだよな?確か、結婚したのは16年前。で、今回発表する予定だった『ASACA』が作曲されたのが17年前。歌詞も付けずに17年間放っておいた訳、何かあるんじゃねぇのか?なぁ?美人マネージャーさんよ」
「おい君!もうよさないか」
「社長さん、あんたも何か知ってんだろ?前のライブの後、波土があんたに食ってかかってたそうじゃねぇか。『17年間何故それを黙ってた』ってな。そしてそのゴタゴタの後、急に波土は新曲『ASACA』を出すと発表した。何かあるとしか思えないがねぇ」
流石雑誌記者、嫌という程波土さんの身辺に詳しいな。気になる情報がポンポン出てくる。
まぁ、態度や言い方にだいぶ棘があるけど。
「それは本当ですかな、布施さん」
「あぁ、いや、彼がうちのレコード会社の所属になったのが17年前なんですが、君をうちでデビューさせた本当の理由は実は私がこの円城さんに一目惚れして言い寄るためだったと冗談混じりに彼に話したら、それが本当なら引退するって…」
なるほどな、そんなこと言われちゃそりゃ怒るわ。
でもまぁ、波土さんを殺害する動機にはならなそうだけど。
「じゃ、俺は帰らせてもらうぜ」
「あぁちょっと!梶谷さんが持ってるその鞄の中身を調べせてください」
「ちょ、おい放せ!早く戻ってこの事件の記事を書かなきゃならねぇんだからよ!」
「だから!その前にその鞄の中身の確認を!」
高木くんと梶谷さんが鞄の引っ張り合いをしていると、手が離れた拍子に鞄が宙を舞って証拠品を運んでいた鑑識に当たってしまった。お陰で手元の証拠品達は床へと投げ出される。
