第35章 新曲
「まぁまぁ落ち着いて」
とりあえずこの場を収めようと二人の間に入ったのだが、
「さんは黙ってて下さい」
安室さんのこの一言で、またまたプチーンと何かが切れた。
「……はぁ?
あのさぁ、さっきも似たようなこと言ってたけど私の何がそんなに気に食わないわけ?」
「そもそもさんがここにいること自体おかしいんですよ。全く、何でもかんでも首突っ込んで…」
「それはあんたもでしょ!」
と、まるで数日前のような喧嘩が巻き起ころうとしたとき「ゴホンッ!」と大きな咳払いが聞こえた。それにより、私たちの動きはピタッと止まる。
音の方へと振り向くと、目暮警部が呆れたようにこちらを見ていた。
「「す、すみません…」」
そうだ、こんな下らない言い合いをしている場合じゃない。今は一刻も早くこの事件を解決して、さっさとこの場を去らなければ。
ちなみに沖矢さんはそんな私たちの様子を見て、いいものを見たとでも言いたげにニヤついていた。ほんと、悪趣味ですこと。
「何ぃ?紙に書いてあった文字は被害者本人のものだった?」
「あ、はい。筆跡鑑定の結果、波土さん自身が書いたもので間違いないとの事です」
高木くんが鑑定結果を目暮警部に報告している。
となると、やはり自殺の線は消しきれない。だが、あの状況下で自殺にも無理があるか。
他殺だとしたら、波土さんは誰かに負い目を感じていてそれが殺害された理由になった可能性が高いな。
「何か、波土さんが負い目を感じることで心当たりはありませんか?」
「負い目はよく分かりませんけど、引け目なら。自分は親しみにくい顔だから、他のイケメンミュージシャンと差を詰めるのに苦労するって波土はよく漏らしてましたから」
「まぁ気にするなと、私は彼に言ってましたよ。君の近寄り難いその雰囲気も魅力の一つだってね」
「なるほど…」
円城さんと布施さんがそれぞれ説明をしてくれた。
確かに私も、以前テレビで波土さんを見た時に強面だなぁと思った記憶はある。まぁ、ロックミュージシャンならそれくらい雰囲気が厳つくても良い気はするけど。