第35章 新曲
すると、私の代わりに今度は沖矢さんが目暮警部の質問に対して口を開いた。
「ええ、恐らく複数の人間で。ステージの上のバーに滑車でも着いていない限り、1人ではほぼ不可能でしょうから」
「あと気になるのは、ステージ袖に置かれたパイプイスと余ったロープと工具箱。それと遺体を吊り上げ客席に繋がれていたロープの結び目近くに残されていた奇妙な穴ですね」
「そして、タコ糸が付いた野球のボールも客席の途中に落ちてたよ」
沖矢さんの後にも安室さん、コナンくんと順々に続けてそれぞれが調べた事を話していく。
「はぁ、よくもまぁ入れ替わり立ち替わり毎度毎度探偵がいるもんだ」
「あ、あはは」
まるで示し合わせたかのように連携の取れた彼らの話ぶりに目暮警部が溜息をついた。ま、部外者にウロウロ現場を調べられた上に我が物顔で状況を語られれば良い気はしないだろうな。
「おいくん、他人事のような顔だが君も含まれてるからな」
「へっ!?い、いや私は探偵なんかじゃなくて歴とした警察官ですから!」
「プライベートでこの事件の遭遇率だと、立派に彼らの仲間入りだと思いますよ」
「ちょ、高木くんまで……」
だいぶ不名誉な言われようだ。
そんなこんなで、目暮警部の指示によりここにいるスタッフへと詳しく話を聞くこととなった。
その後行われたスタッフへの聞き込みをまとめると、波土さんの死亡推定時刻の午後4時半から5時半の間に長時間姿が確認されていないのは布施さんと円城さんの2人。そして雑誌記者の梶谷さんも怪しいとされ、容疑者はその3人となった。
だが、ここで不可解なことが1つ。円城さんの姿が確認されていないのは4時半から4時50分、布施さんは5時から5時15分、梶谷さんがスタッフからジャンパーを買ってホールに入ったのは5時20分頃である。故に、3人のうちの誰かと誰かが共謀するのは不可能なのだ。
因みに布施さんは大学までラグビーを、円城さんは中学の頃にテニスを、梶谷さんは登山部の幽霊部員をそれぞれやっていたそうだ。被害者の波土さんは高校まで野球をやっていて、強肩の外野手だったらしい。現場から見つかった野球ボールは、円城さんの証言により波土さんが高校卒業時に野球部のみんなからもらったボールだと判明した。