第35章 新曲
「複数犯でしょうか。これが1人の人間の仕業だとしたら、途方もない怪力の持ち主だ」
「えぇ、その可能性はあるわね」
「さんには聞いていません」
「は?」
安室さんの言葉に思わず返してしまったが、あまりに突っぱねた対応に些か憤りを覚えた。
なんだよ、喧嘩中だからってそんな冷たく返さなくてもいいじゃん。
「そう思いませんか?先日あなたにお会いした時、卓越した推理力を持たれているとお見受けしましたけど」
「いえいえ、ミステリー好きのただの大学院生ですよ」
私じゃなく沖矢さんへと話し掛けていたと。へーへー間に入ってしまってどうもすいやせんでした。
とまぁ相変わらず流れる空気は不穏だが、各々現場をウロウロと調べ始めたのだった。
「ふむ、それで事件の概要は?」
「あ、はい。えー、亡くなったのはミュージシャンの波土禄道さん39歳。明日ここでライブをやる予定だったそうです」
通報を受け、いつものように目暮警部と高木くんが現場に到着し捜一による捜査が開始された。
「ほう、それで死亡推定時刻は?」
「死後1時間から2時間程だそうです。マネージャーの話によると、2時間くらい前から波土さんは1人でこの会場に籠って作詞をしていたそうなので、その間に誰かがこの会場へ入り被害者の首を吊り上げて殺害したとものと思われます」
「なるほど。まぁ恐らく、スポットライトが取り付けられたあの鉄のバーにロープを渡して重い緞帳を動かす機械を使って吊り上げたんだろうがな」
「目暮警部、その可能性は無いと思います」
「おお、くんも現場にいたのか」
目暮警部と高木くんの会話に、私が割り込んだ。
「はい、ちょっと色々とありまして。
で、ロープの件ですが、緞帳を動かす特殊設備のある部屋は鍵がかかっていて、犯行時その鍵を持っていたスタッフは夕食を食べに出払っていたそうです」
「じゃあ、機械を使わずに吊り上げたと言うのかね?」