第35章 新曲
ま、まさか園子さんがこのリハーサル見学に私を誘った本当の理由って……!!
そう思って園子さんの方を勢いよく振り向くと「ナイショにしててゴメン!」とでも言いたげに、両手を合わせて首を傾げていた。
あぁーー、だからあんなにノリノリだったのね。
くっ、分かっていればこんな場所には来なかったのに…!!
私は1人頭を抱えて項垂れた。
「あれ、梓さんも来たんですか!」
蘭さんの言う通り、梓さんが安室さんの背後からひょっこりと顔を出した。
ーー…ん?梓さん…?
「ほんとだ!ポアロじゃ興味無さそうにしてたのに」
「お店じゃ隠してたけど、私も大ファンなの!
でね、お店のシフトを終えてここへ向かう安室さんの後をつけてきちゃったってわけ!」
そう話しながら、安室さんの腕に縋り付く梓さん。
ーー…いや違う。なんか変だ、この人。
覚えのある違和感、そして動悸が止まらない。
なんなんだこの人。
思わず近くにいた沖矢さんの袖をギュッと掴む。
様子がおかしい私に気付き、沖矢さんが小さな声で「どうしましたか」と聞いてきた。
「…この人、梓さんじゃないです」
この一言で何かを察したのか、沖矢さんは私を自分の背後に隠すように立たせた。その間も、私は震える手で裾を握り続けている。
「驚きましたよ、あなた方も来ていたんですね。沖矢昴さん、そしてさん」
名前を呼ばれてビクッと大袈裟に肩が揺れた。
沖矢さんはそんな私を庇いながらも、安室さんに答える。
「あなたは確か、宅配業者の方ですよね?」
「え?えぇ、まぁ。
それより、お二人は随分と仲がよろしいようだ」
この言葉は私に向けての言葉に間違いない。
以前と同じ、私と沖矢さんの関係を聞き出してそこから赤井さんの正体を探ろうとしているのだろう。
私がここでビビっては駄目だ。赤井さんの正体をこの男には話さないと約束した。私のせいでバレてしまえば、それは同義だ。
しっかりしろ、。
「えぇ、見ての通り仲良しですよ。ね?沖矢さん」
多少手は震えながらも、恰も何も無いかのように平然を装う。
沖矢さんの横に出て、その腕に縋り付いた。偽の梓さんが安室さんにしているのと同じように。
私たちの間には、先程の3人に勝るとも劣らないバチバチとした空気が流れているだろう。