第35章 新曲
「それに美人マネージャーさん、あんたの方の話も決着したんですかい?
新曲のタイトルになってる『ASACA』が、実は波土の新しい女の名前だって噂になってますぜ?んで、長年の浮気相手だったあんたがブチ切れてあんな曲出すなって波土と大喧嘩したとか」
「誰がそんな事!!
あんただって、波土が音楽活動を休止するって記事を他誌にすっぱ抜かれて編集長に大目玉食らったそうじゃない?15年も波土に張り付いてて何やってんだってね!」
「だからこうしてスタッフのフリまでして乗り込んで来たんじゃねぇか。波土がやめちまう前に、逆転のでっけぇ花火をぶち上げてやろうってね」
何とも言えないビリビリとした空気が3人の間に流れている。有名なミュージシャンが絡む問題となると、色々と大変なんだな。
「じゃ、じゃあうちらは帰ろっか」
「そうだね、明日学校だし」
園子さんと蘭さんがそういうのも無理は無い。
こりゃ、リハーサルがどうしても見たいですなんて言える雰囲気じゃないもんな。
「えっ、帰っちゃうの!?」
「最後のライブなら、リハーサルを見た方がいいのでは?」
何の情報もなしに帰る訳にも行かず、コナンくんと沖矢さんは引き下がらない様子だ。正直、私もこのまま帰るのは惜しいと思う。
だって、組織に関する情報が何か分かるかもしれないんだから。
「そうよ!せっかく楽しみに来たんだから、もうちょっと待ちましょう?」
「お二人には悪いですけど、」
「私たち、そんなにファンじゃないからさ!」
「え?じゃあ、ここに来ようって言い出したのって……」
「僕ですよ」
「げっ…!」と思わず口から漏れてしまった。
この声は、数日前に言い合いをしてそれっきりの、今最も会いたくなかった人物。
振り返りたくないとは思いつつもそういう訳にもいかず、ギギギ…という音を立てるかのように首だけそちらに向ける。
すると、やはりそこに居たのは紛れもない降谷……いや、安室透だった。
「ポアロで僕が波土さんの大ファンだと話したら、リハーサルを見られるように手配してくれたんです。彼の所属するレコード会社に出資しているのが、偶然園子さんの鈴木財閥だったらしくて」