第35章 新曲
「いや、私も行きます」
「さん」
「行くったら行くんです!
そもそも、園子さんが最初に誘ってくれたのは私なんですよ!あなた方にどうこう言われる筋合いはありません」
こうなったら絶対に引かないことを、沖矢さんとコナンくんは十二分に理解しているだろう。
2人は顔を合わせて、諦めたように溜息をついた。
「よし!じゃあ決まりね!
さん、当日楽しみにしててね!」
「えぇ、もうすっごく楽しみにしてるわ!」
園子さんの一言に、私は勢いに任せてそう答えた。
その一言に本当はどんな意味が込められていたのか、察しがつかなかった事を後悔するなるなんて知らずに。
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「えぇーー!?リハーサルが見学できない!?まじで!?」
ライブ会場のエントランスに、園子さんの声が響き渡った。
「ごめんなさいね。実はまだ新曲の歌詞が完成してなくて。
ステージの上で誰もいない客席を眺めながら書くから、2時間1人にさせてくれって」
そう説明してくれたのは、波土禄道のマネージャーである円城佳苗さん。どうやら、こういうことはよくあるらしい。
マネージャーさんも大変だな。
「まぁ、彼の好きにさせてあげましょう。彼にとって今回のライブが最後のようですから」
そう言って登場した男性は、レコード会社の社長である布施憶康さん。ガタイが良くて、思わず「デカッ」と呟いてしまうほど全体的に大きな人だ。
「さ、最後って…」
「波土さんが引退するって噂、まじだったんだ…」
「えぇ。何度も止めたんだが、明日のライブのラストでファンに伝えるそうだ」
「なら、話はついたんですかい?
契約期間中に引退するなんて以ての外。どうしてもって言うのなら、裁判沙汰にして法外な違約金をふんだくってやるって息巻いていたっていうのに」
話に割って入ってきたこの人は、雑誌記者の梶谷宏和さん。
スタッフの1人に金を握らせて、スタッフジャンパーを手に入れて堂々と正面入り口から入ってきたようだ。