第35章 新曲
「さん?」
突然黙り込んだ私を心配するかのように蘭さんに名前を呼ばれた。
「……あ、いや、なんでもないわ!
そんなことより、あなた達こそなんで工藤先生のご自宅に?」
よくよく考えてみれば、蘭さんと園子さんが自らこの家に赴いた理由も気になる。工藤先生と一体どういう関係なのだろうか。
「あぁ、それは……」
「ここの息子の工藤新一くんが、蘭の旦那だからよん!」
答えようとした蘭さんに被せるように園子さんが言い放った。
「ちょ、ちょっと園子!!!」と慌てふためく蘭さん。
あーなるほど、そういうことね。
「いいわねぇ〜高校生。青春って感じ」
そんな私の言葉に蘭さんは「いや!ち、違いますから!!もう園子!!!」と弁解を続けている。
ついさっきまで自分がその対象だったにも関わらず、園子さんに揶揄われている蘭さんがとても可愛らしく思えた。
「そーうーじっ!!するんでしょ!!」
収集がつかなくなった現状を収めたのはコナンくんの一言だった。
そうだ、こんなことをしてる間にも時間はどんどん過ぎている。ちゃっちゃと手を付けなければそれこそ明日へと持ち込むことになってしまうだろう。
そうして、各々この書斎の掃除を始めたのだった。
「ったく、何が悲しくて学校帰りの花のJKが留守中の推理オタクの家を掃除せにゃならんのよ!」
あれからまだ数分しか経っていないが、園子さんはもう既に飽き始めている様子。はたきを片手に色々と口から漏れてらっしゃる。
そんな園子さんを「まぁまぁ」と蘭さんが宥めていた。
そんな微笑ましい光景を背に、私は相変わらず本棚を吟味しながら掃除を進めている。
「そういえばコナンくん。君の名前ってご両親がつけたのよね?」
私の横で同じく掃除をしている少年に声をかけると、彼は心做しか肩をビクつかせた。
「えっ!?な、何で?」
「江戸川って苗字もコナンって名前も珍しいなと思って。
ほら、丁度ここに江戸川乱歩とコナン・ドイルの小説が並んでるし」
指をさしながら「ご両親もとってもミステリー好きなのね!」と続ける私に「う、うん!」と引き攣った笑顔のコナンくん。
なんか、突っ込んじゃいけない所を突っ込んじゃったかな。