第35章 新曲
そして迎えた約束の日、
「こ、ここが、工藤先生のお仕事場……!!」
口元に手をやって、感動のあまりに立ち尽くした。
円形に設計されたお洒落な空間の中に、図書館と遜色ないほど羅列された本の数々。そしてその中心に置かれた机。
まさに名作が生まれるべくして生まれた空間と言えよう。
「もうここは聖域ですよ聖域!!なんと素晴らしい!!
私なんかが立ち入っていい場所じゃないです!!!」
「分かりましたから、さっさと始めますよ」
はたきと雑巾、そしてバケツを持った沖矢さんにあしらわれた。
全く、この空間の価値を分かっていないんだから。
「まずはこの大きな本棚から手をつけていきます。はたきで埃を落としていってください」
「はーい!」
言われた通りに本棚を順にはたいていく。
その間、本棚に羅列されている本をじっくりと見させてもらった。ちゃんと掃除してるんだからそれくらいいいよね。
工藤先生の書斎ということで、きっと難しい本が並んでいるのかと思っていたが意外と私も親しみのある本が多くあった。
「ABC殺人事件」や「そして誰もいなくなった」でお馴染みのアガサ・クリスティや、アルセーヌ・ルパンの生みの親モーリス・ルブランなどなど誰しも1度は聞いたことがあるであろうミステリー作家ばかりだ。
まさに、名作ミステリーの宝庫である。
そして下の方に来ると、我らが日本が誇る文豪江戸川乱歩や皆大好きシャーロック・ホームズシリーズのコナン・ドイルが隣り合わせで並んでいた。
その時、ふとあの少年の顔が浮かんだ。
“コナン”くんって中々珍しい名前だよな。“江戸川”って苗字も初めて聞いたし。
何だかまるで、ミステリー好きが思いつきでつけた名前みたい。
「進んでます?」
「あ、はい。ちゃーんと埃落としてますよ」
「本を吟味しているの間違いでしょう?
全く、そのスピードじゃすぐ日が暮れますよ。もっと効率的にお願いします」
何だよその言い方!赤井さんがどうしても手伝ってくれって言ったんじゃん!ま、今は沖矢さんだけどさ!!
「こんにちはー!」
私が沖矢さんを睨んでいると、玄関から声が聞こえてきた。