第34章 悪夢のつづき
コンコンと大きなドアを叩いて「連れて来ました」と風見さんが言うと、程なくして中から「…入れ」と声が聞こえてきた。
開かれたドアの先には、やはり見慣れた金髪が佇んでいる。
その顔には若干の隈が見え、心做しか窶れているようだった。
「風見、ご苦労だった。席を外してくれ」
「はい」
風見さんは言われた通りに私の背後のドアから出ていき、部屋には2人だけになる。
「……最初からこのつもりだったんでしょ?」
先に口を開いたのは私だ。
「…このつもり、とは?」
「尾行に警視庁の公用車を使うなんて詰めが甘々すぎる。あんたの指示なら絶対にありえないもん。私が公用車全部のナンバーを記憶していることくらい分かってるだろうしね。
バレバレな尾行でわざと私に気付かせて、私から接触させるよう仕向けたってことでしょ?
何でそんな回りくどいことしてまで私を呼びつけたのよ」
目の前の彼は1度俯くと、再び顔を上げて厳しい眼差しで私を見つめた。
「何故君は事件当日東都水族館にいたんだ。先程も、君が閉鎖中の東都水族館へ行ったと報告が来ている。
……君が隠している目的を聞かせてもらおうじゃないか」
予想通りの質問だな。
「事件当日は、あなた達公安が連れ去って行った彼女が気掛かりだったからついて行ったの。一応彼女の身元捜査は捜一からの依頼で私が受け持ってたし、あなた達が彼女に何をするのか分かったもんじゃないからね。それに、もし何かあった場合こっちにまで飛び火してくるのなんてごめんだったから。
ま、まさかあんな大規模な事件が起きるなんて思わなかったけど」
あくまで「彼女が組織の一員だから」という点は伏せる。
恐らく私が組織について何かしら掴み始めていると疑い、その確信が欲しいがために呼びつけたのだろう。あわよくば、私に自白させようと。
「ほう?ならば今日は何故現場に行ったんだ」
「今日現場に行ったのは、事件当日にネックレスを落としたから。とても大事なものだったから探しに行ったのよ」
多少無理がある嘘だとは自分でも思うが、今はこれで通すしかない。だってこれ以外に誤魔化せる理由思いつかないし。