第34章 悪夢のつづき
「ここからは、私たちの間でも限られた人間しか知らされていない情報よ。
日本の警察庁に侵入してデータを奪った工作員、組織でのコードネームはキュラソーと言うの」
キュラソー。
オレンジの果皮の香味成分と糖分を加えて作られるリキュールである。その種類は豊富で、一般的に飲まれるホワイトキュラソーやオレンジキュラソーから、そこに着色を加えたブルーキュラソー、グリーンキュラソー、レッドキュラソーなど様々だ。
なるほど、彼女の記憶はその5色を媒体にしていて、だから事故で記憶を失った際に東都水族館の5色のライトに強い反応を示したというわけか。
「で、そのキュラソーがついこの間日本で死亡が確認された」
「ええ、組織の攻撃による被害から大勢の市民を守るためにね。ただその情報も改ざんされて、市民や私たち下っ端警察官には知らされていないけど。
でも、どうしてそんな行動を取ったのかが分からない」
「多分だけど、キュラソーは組織を裏切ったんじゃないかしら?そうして裏切った工作員を組織が始末しようとした。
詳しくは言えないけど、以前にも似たようなことがあったのよ」
確かにそう考えれば、彼女のあの行動にも納得が行くな。
だとすると何か小さなきっかけが、例えば子供たちの存在が彼女を変えたのかもしれない。
「でも、仮にも仲間の人間を簡単に始末するだなんて…」
「言っちゃあ悪いけど、組織にとってはそんな珍しい話でもないわ。幹部にね、驚く程厄介な奴がいるらしいのよ」
「幹部?」
「そもそも、コードネームを与えられる人間は組織の中でも極小数。ほとんどは、名前すらない末端の人間で構成されているの」
「だったら、世界規模で合同部隊を作ればすぐに制圧出来そうだけど」
「それがそうもいかないのよ。幹部達の情報が未だに全くと言っていいほど掴めていないの。分かってるのはコードネームが酒の名前ってことだけ。容姿も歳も今現在何処にいるのかも、なーんにも分からない。
だから、各国がそれぞれ諜報員を潜入させて内部から情報を暴こうとしているってわけ」