第33章 純黒の
「ちょっとこの傷、もしかして殴られたんですか?」
「…いや」
「手の甲も怪我してるし……。
はぁ全く、誰と殴り合ったんですか?」
「……ちょっとな」
言うつもりの無いらしい赤井さんに溜息を着きつつ、私は早速手当てを始めた。
「……随分と慣れてるんだな」
「ええまぁ。昔、事ある毎に殴り合いの喧嘩してたバカがいたものですから。お陰様で手馴れたものです」
赤井さんの顔にガーゼやらバンドエイドやらを貼っていると、ふと背後に人の気配を感じた。
驚いて振り返るが、あるのは樹木と暗闇だけ。
「どうした?」
「…今、誰かに見られていたような気がしたんですけど」
「気のせいじゃないか?俺は何も感じなかったぞ」
「そう、ですかね」
人混みから外れたこんな叢に誰かいるわけが無い。そう言い聞かせて、私は赤井さんの手当を続けた。
長袖長ズボンということもあり、顔以外は大した怪我もなく数分足らずで手当ては終わった。
「それで、さっきのあれ、一体何なんですか?」
「…君は薄々気が付いているんじゃないか?」
「……組織、ですよね」
恐らくは例の女性が深く関わっているんだろう。
子供たちの証言や公安の動きから、彼女が組織に関わる人物だということはほぼ確実。となると、先程の大きなヘリコプターは彼女を奪還、捕獲、或いは始末するために観覧車を攻撃していたという事になる。
「この目で初めて見ました。組織の脅威を。
赤井さんや他の人たちが言わんとしていた事が、本当の意味で分かった気がします」
人を殺すことを厭わない集団。
ただ、その規模を見誤っていた。まさか、無関係の人々をあそこまで巻き込むだなんて。
その本当の恐ろしさを、今日身をもって知った。
「赤井さんたちは、あんな奴らを相手にしていたんですね」
「あぁ。だがそれも、大勢を守るためだ。
現に今日、奴らの脅威から君を守ることが出来た」
そう言って赤井さんは私の左頬を撫でた。
この人やコナンくんがいなければ、私だけではなくもっと大勢の被害が出ていただろうな。