第33章 純黒の
「でっけぇ…」
観覧車の真下まで来て見上げると、その大きさは想像を遥か上回っていた。
地上100メートルって、字面では実感無いけど実際見るとやばいな。
側面は電光掲示板のようになっており、『Welcome To Touto Aquarium』の文字と現在時刻が交互に映し出されている。
周りはファミリーやカップルで溢れかえっており、スーツ姿で1人の私は明らかに浮いている。
でも今はそんな事どうでもいい。早く公安とあの女性の元へと行かなければ。
「すみません、大観覧車はチケットをご購入のお客様のみのご案内なんです」
「じゃあそのチケットは…」
「本日分の販売は終了しておりまして……」
まじか。完全にしくった。
ぶっちゃけ、ここで警察手帳を出して乗せろ!って言えば乗せてはもらえるだろう。
だが、そんな職権乱用みたいなことはしたくないし、何より後から手帳使用に関する報告書やら何やらを書かなくてはいけない。
それが非常に面倒くさいのだ。
結局観覧車には乗れずじまい。
仕方がない、女性が観覧車に乗っている間に何も起こらず無事に降りてくることを願って待つしかないか。
『皆様、大変長らくお待たせいたしました。
只今より水と光のスペシャルショー、ナイトプログラムを行います』
ただ突っ立っていることしか出来ない私を余所に、観覧車前の噴水では水が踊るように湧き上がり、色鮮やかなライトが四方八方を照らして、夜空には花火が何発も打ち上げられている。
こんな立場で来ていなければ、さぞかし綺麗に見えただろう。
だが今は、どんなものでもあの女性の刺激になりかねないため出来るだけ静かに穏便に且つさっさと終わってくれと祈るばかりだ。
何だか心配になって観覧車をもう一度見上げるが、当たり前に乗車中の女性と公安の姿は見えない。
「はぁ、見えるわけないか……って、ひ、人!?」
観覧車の背後で大きな花火がドンッ!!と1発打ち上がった時、観覧車の上に人影が2つの見えた気がした。
え、何であんな所に!?
いや、あんな高い所に人が2人もいるわけないだろ。地上100メートルだぞ。気の所為に決まってる。
私、疲れてるのかな。
再び視線を地上に戻すと、今度は見覚えのある子供が1人目の前を通り過ぎた。