第33章 純黒の
「あ、哀ちゃん!?」
驚いて声を上げると、名前を呼ばれた哀ちゃんは振り返った。
その顔にはコナンくんのものに似たメガネが掛けられている。イメチェンだろうか。
「え、さん、なんでここに…」
「それはこっちのセリフよ!何でこんな時間にこんな所へ1人で来てるの!阿笠さんや他の子供たちは?」
「えと、その……ご、ごめんなさいっ」
「あっ!ちょっと!」
哀ちゃんは私を振り切ろうと走り出したが、そうはさせまいとその小さな腕を掴んだ。
「どうしたの?そんなに焦って。何かあったの?」
「……大丈夫だから、本当に。だからほっといて」
「ほっとけないでしょ!1人じゃ危ないんだから」
私達の状況なんてお構い無しに、あちこちからから「綺麗だったね〜」という声が聞こえてくる。どうやらナイトプログラムとやらが終了したようだ。
それと同時に私達を見て不思議がったり心配する声が聞こえてきた。そりゃそうだ、スーツ姿の女が小さな女の子の腕を掴んでいる状況なんて異様でしかない。
でも、今この手を離してはいけない気がする。
確か、ベルツリー急行でも似たようなことがあったな。
やはりこの子は1人にしてはいけない。
「何か用があるんだったら、私も一緒に行くわ」
「いい。
お願いだから離して…!巻き込みたくないの」
「え、巻き込むってな……」
バチッ
その途端、辺りが暗闇に包まれた。
大観覧車は止まり、屋外施設は真っ暗だ。
あまりに突然の出来事に周囲の人々はパニックになっている。
そして、唯一明かりが着いていた水族館へ向けてみんなが走り出した。
「ちょ、ちょっと!!押さないで!落ち着いて下さい!!」
人の波に揉まれ、私はその手を離してしまった。
「……ごめん、お姉ちゃん」
とても小さな声で、哀ちゃんはそう呟いたような気がした。
そして手が離れて自由になった哀ちゃんは、その小ささを活かして人混みを縫い観覧車へ向けて走っていってしまう。
「待って!待って哀ちゃん!!」
追いかけようとするも人の流れに抗って進むのは中々に厳しく、加えてこの暗さである。
私はすぐに哀ちゃんを見失ってしまった。