第33章 純黒の
「さん!」
「佐藤!遅くなってごめんなさい」
「いえ、私達も今現着したところです」
「さん!!佐藤刑事!!」
「「コナンくん!!」」
現場には駆けつけた救急車とコナンくんや阿笠さん、それに子供達がいた。
どうやらみんなでこの東都水族館に来ていたようだ。
「コナンくん、例の女性は?」
「今医務室から運ばれるところだよ!」
「そう。行きましょう、佐藤」
「はい」
青柳には救急車の元で待機してもらい、私と佐藤は水族館の医務室へと向かった。
「これから彼女が搬送される警察病院の方に伝えていただきたいことがありまして」
倒れた女性の対応をしてくれたドクターから、身柄の引渡しに際し話を聞いていた。
ちなみに、コナンくんも私達に着いて一緒に話を聞く気らしい。
いつもの事だな。
「記憶を失っているのは頭部への強い衝撃が原因とみてまず間違いないのですが、それよりも脳弓の部分に大変珍しい損傷が見つかりまして」
「夕べの事故の怪我ではなく?」
「ええ、これは恐らく生まれつきのものだと」
「今回の、彼女が倒れた発作との関係は?」
「日常生活に支障のある部分ではないので、関係無いと思いますが」
脳弓とは、海馬体から出て乳頭体、中隔核に至る神経線維束である。
こう聞くと難しく聞こえるが、つまりは記憶に関与する回路の一部だ。
ただ、ドクターも話していたように生まれつき損傷があるからと言って日常生活にさほど支障はない。
「分かりました、伝えさせていただきます。では」
「あっ、待ってください!それともう1つお伝えしたいことがありまして。検査の時に分かったんですが、彼女の右目にこれが」
そう言って、ドクターは銀トレイに乗せたあるものを差し出した。
「これは…カラコン、ですか?」
「ええ、黒い瞳に見せるためのカラーコンタクトレンズですね。
まぁこれに関しては記憶喪失とは全く関係がないことはないんですが、念の為お伝えさせていただきました」
すると、救急隊員から搬送の準備が整ったと報告があった。
「佐藤、後はお願い」
「了解です」
女性の搬送は佐藤に任せ、私は医務室に残る。
少し、気になったことがあるのだ。