第32章 お食事
「……あの、やっぱり全額奢って頂くのはさすがに申し訳が立たないので、せめて自分の分は払わせて頂けませんか?」
「だから何度も言いますが、あなたが私の事を考えて店を選び、2人だけで沢山話が出来ただけで十分お礼とお詫びになるんです」
「で、でも…」
もちろん、相手へのお礼とお詫びが金でどうこうなるわけでは無いのは十二分に承知している。
ただ、立派な大人として、1つのケジメとしてやはりそこは甘える訳にはいかないのだ。
それにあそこ、そこそこいいお値段なお店だし。
「やっぱりそういう訳にはいきません!!」
「はぁ……君はつくづく頑固な奴だな」
無理矢理カバンから財布を取り出そうとした最中、急に赤井さんに戻った沖矢さんが私の腰を抱いてグッと引き寄せた。
わっ!と言いながら勢いに負けて目を閉じると、その瞬間おでこに唇の柔らかい感触。
恐る恐る目を開くと、目の前には眼鏡をかけた端正なお顔があった。
「そこまで言うなら、これでどうだ?」
片目を開き、その緑が私を捉える。
額にキスをされたと分かった瞬間、私は口をパクパクさせることしか出来なかった。
「ちょ、ちょっ、ここ、わ、私の自宅の最寄りなんですけど!!」
「今場所は関係無いだろ」
「大ありですって!!知り合いにでも見られたらどうしてくれるんですか!?
てか、急に何なんですか!?」
「だから、が金を払うとどうしても聞かないからその代わりに足るものをもらっただけだ。
いや、なんなら釣りが出るかな」
金の代わりがキスって…イギリスの血筋は恐ろしいっ!!
たくっ、こっちは慣れてないんだってばこういうの!
私はひたすらにおでこを抑えて悶えていた。
「ふふ、まさか君が耳まで真っ赤にする所まで見れるとはな。
やはり金よりこっちの方が遥かに価値が高い」
またもニヒルに笑う沖矢さんを、私はジト目で見つめた。
「まぁ、酔っ払いの戯れだと思って忘れてくれ」
「……性格悪いです」
「君に言われたくは無いな」
続けて「それに言っておくが、俺は別に金には困っていない」だと。
何だよそれ、そんなん言われちゃ何も言い返せねぇってーの。