第32章 お食事
「「はぁ!?大学時代の元カレと殺人事件現場で再会したぁ!?」」
「う、うん。結構前に」
「「詳しくっ」」
「いやー、あの、人が亡くなってるって連絡を受けて現場に行ったら、その元カレと同じマンションでしかもお隣さんだったっていう…」
「何それ運命的じゃない!」
「さん、そんないいもんでもないんですよ。
実は私、そいつのこと割と酷い振り方しちゃってまして」
「酷い振り方って?」
「大学卒業の時、警察官になるから別れましょって言ったら変な封筒押し付けて『7つ揃うまで待ってくれ』って言われたんです。でもいくら聞いても中身が何だか教えてくれないし、待てど暮らせど連絡も来なかったから痺れを切らして『もう待てないし顔も見たくないし声も聞きたくない!』って振ってやったってわけです」
「あらまぁ」
「で、その封筒は今どこにあるの?」
「んなの、どっか行っちゃったわよ」
佐藤の問に、当たり前だろとでも言いたげな由美。
まぁ、せっかちで大雑把な由美らしいというかなんというか。
でもそれ、結構大事な封筒なんじゃないのか?
「てか、7つ揃うまでってドラ○ンボールかよ」
「ですよね!?顔はかーなりイケメンだったんですけど、性格が子供過ぎて…」
「ねぇ、もしかしてその彼船乗りなんじゃない?ほら、北大西洋と南大西洋、北太平洋、南太平洋、インド洋、北極海、南極海の七つの海を制覇するまで待ってくれとか!」
「美和子、あんたそれ本気で言ってる?私が船乗りと付き合ってたって?
無い無い。あいつは色白で無精髭でメガネのニートっぽい男だったから」
「じゃあさ、七つの大罪とかは?傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲の7つ」
「さん、それ集めてどうするんすか」
「…そっか」
その後も由美の元カレ話は止まらず、長々とかつての愚痴を聞かされた。愚痴と言いつつ八割惚気のような気もしたけど。
本人は“元”カレだと言い張っているが、話を聞く限り案外相性いいんじゃないかと思えてくる。
そう言うと、由美は意外にも満更でも無いような反応を示した。
こりゃより戻すのも時間の問題か。
佐藤と言い由美と言い、ことごとく後輩に先を越されているな全く。
何か、自分が惨めに思えてきた。