第31章 緋色の
先程から、私の知らない新情報がポンポンと出てくる。
確かに私も、赤井さんは死は偽造されたものだとは思っていた。だが、その証拠も真相も掴めてはいない。
あいつは、そこまで調べた上で満を持して来たということか。
全く、勘だのなんだの言っていた自分が恥ずかしい。
『じゃあそのグルの人物に頭に向けて空砲を撃ってくれと頼んでいたんですね?』
『いや、頭を撃てと命じたのは監視役の男。
予想していたんですよ。監視役の男が拳銃でとどめを刺す際に必ずそうすると』
『ホォ、中々やるじゃないですかその男。
まるでスパイ小説の主人公のようだ』
『だが、この計画を企てたのは別の人物。
その証拠にその男は撃たれた刹那にこう呟いている。
“まさかここまでとはな…”ってね』
『…私には、自分の不運を嘆いているようにしか聞こえませんが』
『ええ、当たり前に捉えるとね。
だが、ある言葉を加えるとその意味は一変する。
“まさかここまで読んでいたとはな…”
そう、この計画を企てたある少年を賞賛する言葉だったというわけですよ』
計画を企てた、少年……。
ふと、私の横で座っている彼を見やる。
まさか、赤井さんの死の偽造を企てたのがこの子だとでも言うの…?
『そこから先は簡単でした。
来葉峠の一件後、その少年の周りに突然現れた不審人物を捜すだけ。
そして、ここに辿り着いたというわけです』
そうしてあいつは自分の携帯を取り出すと、机の上に置いた。
『連絡待ちです。
現在、私の連れがあなたのお仲間を拘束すべく追跡中。
流石のあなたも、お仲間の生死がかかれば素直になってくれると思いましてね。
でも出来れば連絡が来る前にそのマスクを取ってくれませんかねぇ、沖矢昴さん。
いや、FBI捜査官、赤井秀一!!』
『……君がそれを望むなら、仕方ない』
沖矢さんがマスクに手を掛ける。
おいおいまさか、今この場でその正体を晒すつもりなのか…!?
だが、私の心配を他所に沖矢さんが取ったのは風邪の予防として装着していた不織布マスク。
外した途端にゴホゴホッと咳をしている。
すると、私の隣で座っていた彼が赤い蝶ネクタイを口元に添えて徐に話し出した。
「少々風邪気味なので、マスクをしてもいいですか?
君に移すといけない…」
……は?
彼は今、確かに沖矢さんの声を出した。