第31章 緋色の
『別の男?』
『ええ、実際には3人の男にその携帯を拾わせようとしていたようですけどね。
さて、ここでクエスチョン。
最初に拾わせようとしたのは脂性の太った男、次は首にギプスを付けた痩せた男、そして最後にペースメーカーを埋め込まれた老人。
この3人の中で指紋が残っていたのは1人だけ。誰だと思います?』
『2番目の痩せた男ですね?なぜなら最初に太った男が拾った時に付着した指紋は綺麗に拭き取られてしまったから。
脂まみれの携帯を後の2人に拾わせるのは気が引けるでしょうしね。
3番目の老人は携帯の電波でペースメーカーが不具合を起こすのを危惧して拾いすらしなかったって所でしょうか』
沖矢さんが見事に私と全く同じ考えを饒舌に話した。
だが、その後に問題の殺された男、赤井さんもその携帯を手にしたのなら上書きするように赤井さんの指紋がついてしまうのではないか?
『殺された男は、自分の指紋が付かない工夫をしていたんです。
恐らく、その男は殺される事を見越して予め指先にコーティングをしていたんでしょう』
『なるほど…中々興味深いミステリーですが、その撃たれたフリをした男はどうやってその場から立ち去ったんですか?』
『それに答える前に、テレビを消してくれませんか?
大事な話をしているんですから』
『いいじゃないですか。マカデミー賞気になるんですよ。
それで、その男はどうやって?』
『その男を撃った人物とグルだったんでしょうから、恐らくその人物の車にこっそり乗り込んで逃げたんでしょうね。
離れた場所でその様子を見ていた監視役の男の目を盗んで』
監視役……『組織』の人間か。
『監視役の男はまんまと騙されたってわけですよ。
何しろ、撃たれた男は頭から血を噴いて倒れたんですから。
だが、それもフェイク。撃たれた男はいつも黒いニット帽を被っていましたから。
この近所にはMI6も顔負けの発明品を作っている博士がいるそうじゃないですか。彼に頼めば、空砲に合わせてニット帽から血糊が噴き出す仕掛けくらい簡単に作れそうだ』