第31章 緋色の
「青柳、私今日は定時で帰るから」
「え、でもマカデミー賞って夜8時からですよね?
流石に5時帰宅は早くないすか?」
「早く帰って録画予約しなきゃいけないのよ!!」
「そ、そうですか。頑張ってください…」
ガチファン怖ぇ…
と、青柳は心の中で呟いたんだとか。
そしてその後、
「警部!この書類は…」
「生活安全課に回して」
「警部、ここミスっちゃって…」
「やっておくから置いておいて」
「警部、向こうの本部からお電話です」
「繋いで」
無駄なく効率的に仕事を捌いていく。
その間にも、私の頭は『録画』でいっぱいだ。
正直言うと、沖矢さんのことは頭から抜けている。
ボーンボーン
待ちに待った夕方5時を告げるチャイムがフロアに響いた。
「じゃあ私は帰るから、後はよろしく青柳」
「了解です。焦って事故らないで下さいね」
一目散にエレベーターへ乗り込み、駐車場から車を出す。
一々引き止められる赤信号に苛立ちを感じながらも、自宅を目指して走らせた。
ちなみに、ノミネートの段階なのになぜこんなに本気なのかと言うと、私は工藤先生の最優秀脚本賞授賞を確信しているから。
実は、先生が映画脚本を制作するのは今回の『緋色の捜査官』が初めてなのである。
にもかかわらず、世界的に有名なミステリー小説家であるあの工藤優作が手がける脚本ということでファンだけでなく多くの人から期待が寄せられていた。
そして、いざ完成した映画はその期待をさらに上回る程の出来栄えであったのだ。
私も実際に映画館で拝見したが、迫力あるアクションと音響、引き込まれる俳優の演技、そしてなんと言っても、至る所に散りばめられた伏線がラスト一気に回収された瞬間、工藤先生らしさを存分に感じながら全てが最高の映画だった。
特に印象深いのが、主人公が揺れる車内から追手の車のタイヤを狙撃するシーン。あれは本当にかっこよかったな。
小説だけでは味わえない“動き”が加わったことで、今まで以上に感動したのを覚えている。
これからの人生において『緋色の捜査官』に勝る映画は他に無いだろう。
観客にそう知らしめる程に素晴らしい映画であった。
故に、工藤優作先生が最優秀脚本賞を授賞することは必然なのだ。
……と、長々と語っているうちに自宅に到着。