第31章 緋色の
「ん?」
こんな時間にメール?誰だろ。
携帯を取りだして宛名を確認する。
「……わお」
その相手は、久しく会話すらしていないあの男、
沖矢昴であった。
『貴方に話したいことがあります。明後日の夜、工藤邸に来て下さい』
有無を言わさぬ文面。どうやら私に拒否権は無さそうだ。
ま、どちらにしろこっちから連絡する予定であったから丁度いいけど。
私一人で『組織』について調べるのには限界がある。
だから協力者が必要だ。
現段階で頼れるのは沖矢さんくらい。だがただ協力して欲しいと言っても無駄だろう。
そこで、沖矢さんという名の化けの皮を剥いで赤井さんの弱みを握る。
そうすれば『組織』についての情報も得られるはずだ。
よーし、洗いざらい吐いてもらおうじゃないの!
そう息巻いて、私はメールに『分かりました』と簡潔な返信を送った。
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2日後。
昨日はたっぷり睡眠を取ったから、今日のコンディションはバッチリ。
なんたって、今日の夜には重大な予定が待っているのだから。
何事も備えあれば憂いなし。
「気合い入ってますね、今日」
「まぁね。
なんたって、今日は大勝負の日だから」
「あぁ、もしかしてマカデミー賞ですか?
確か、最優秀賞脚本賞にさんの大好きな工藤優作先生がノミネートされてましたもんね」
「えぇ!……えっ?」
あれ、マカデミー賞って今日だっけ……?
「や、や、やっちまったァァァ!!」
色々な事が重なりすぎて、完全に忘れてしまっていた。
工藤先生のノミネートが発表された時から、リアタイしようって決めてたのに。
実は私、学生時代に『闇の男爵(ナイトバロン)』を読んでから工藤優作先生の大ファンなのである。
もちろん、シリーズ全て自宅の本棚に取り揃えている。
そのお陰で多少の推理力が養われ、今の仕事にも生かせているのだ。
なのに…なのに……大事なこの日を忘れるだなんて……!!
ファンとして有るまじき失態!!
どうしよう。今更沖矢さんとの約束を断るわけにはいかない。
私としても早い方がいいのだから。
だったら、リアタイ出来ないならばせめて録画はしなければ!!
一旦帰る時間あるか?
いや、あるかどうかじゃない、作るんだ。