第30章 お茶会
「安室さん…でしたっけ?
あの人なんすよね?さんの言う大切な人って」
それからしばらくの沈黙の後、青柳が徐に口を開いた。
「前、仕事を早く切り上げてわざわざ会いに行った男もあの人ですよね?」
「……いや?」
え、えっ!?何で分かったの!?
いや、私の部下が仕事が出来て優秀な奴だということは分かっていた。
けど、まさかここまで鋭いとは思わなかった。
「伊達に2年間さんの下で働いてないんで。
あの人を見る目が違ったのなんてすぐに分かりますよ」
「えっ、そ、そんなに分かりやすかった…?」
「あーほらほら、ちゃんと前向いてください」
プップーとクラクションを鳴らされ、私は慌てて前を見る。
こういう時に限って、もう間もなく目的地だ。
「俺には、向けてくれない目なんで」
青柳はそう呟いた。
相変わらず外を見ているため、その表情は読めない。
私には分からない、ゼロに向けていた目。
一体、どんな目なのだろうか。
そうこうしているうちに車は本庁の駐車場へと入っていく。
無事に到着だ。
「色々言いましたけどとにかく俺が言いたいのは、お互いに大切であればあるほどその思いは食い違うものなんすよ。
だから、さんがやりたいこと、やるべきだと思ったことをやればいいと思います。
俺、さんの真っ直ぐ自分を貫く所、誰よりも尊敬してるんで」
停車した車の中で青柳は、私の目を真っ直ぐに見つめてそう言った。
質問の答えとは程遠いものではあるけど、でもやっぱり、私の優秀な部下はいつでも私の欲しい言葉を言ってくれる。
そうやって何度も救われてきた。
「ありがとう」
そして今回もその言葉に救われる。
お陰で、改めて決心がついた。
ーー…私は、私の守りたいものを守る。
ゼロが私の前からいなくならないためなら、なんだってやる。
決意を込めてシートベルトを外し、車から出た
「一方通行って、悔しいもんだな」
車の中でそんな言葉が呟かれていたことなど知らずに。