第30章 お茶会
「……冗談よ。
そもそも、あんたと青柳じゃ信頼のベクトルが違うの。
ムキになって張り合わないでよ」
「別にムキになんてなってない」
「へーへー」
負けず嫌いは健在か。
相変わらずすぐ張り合おうとするんだから。
「はぁー、あの余裕たっぷりの安室透さんはどこへやら」
「…もあっちがいいのか」
そう問いかけるゼロの目は、まるで捨てられた子犬のようだ。
「いいや?こっちの方がらしくていいと思う。
ゼロって感じで、私は好き」
この言葉にやっと満足気なご様子。
「聞きたい事はそれだけ?なら早く戻りたいんだけど。青柳待たせてるし」
「待て、もう1つある」
ですよね。
こんな下らない事のためにわざわざ引き留めるわけないよな。
「、昨日寝てないだろ?」
「……いや?寝たよ」
鏡で念入りに確認したから隈はできてないはずだ。
他に変わったところも無い。
「分かりやすいんだよ。
寝不足だと耳たぶを触る癖、変わらないんだな」
「えっ!?」
何それ、全っ然気付かなかった…。
うそ、私そんな癖あったの?
29年間生きてきて今初めて知った。
え、やば。
「と、ともかく癖については置いておいて、
…私が寝てないと、あんたに何か不都合でも?」
「昨日、の周りで何か引っかかる事があったんじゃないのか?
例えば……僕に会ったとか。
それで一晩中その事について考えてたんだろ」
ピンポーン大正解。
……でも、それを素直に認めるわけにはいかない。
「いや、何言ってんの?あんたに会ったわけないじゃん。
私、昨日は友達と花見に行ったんだよ?
まぁ、そこで事件に巻き込まれはしたけど、特に引っかかることなんて無かった」
真偽を問うかのように目を見つめられる。
誰かさん直伝のポーカーフェイス、ちゃんと出来てるかな。
「……そうか。
悪い、変な事聞いたな」
「慣れてるからお構いなく」
そうして、今度こそ私は解放された。
正直、完全に騙せたとは思っていない。
何なら全部嘘だとバレてると思う。
でも、私が否定した以上は問い詰めることは出来ない。
だって、それでは自ら違和感を植え付けることになってしまうのだから。
互いに牽制し合い嘘をつき合う。
これでいい。