第30章 お茶会
「じゃあ失礼します、安室さん」
会釈をしてさっさとその場を去ろうとした。
……去りたかった。切実に。
「ちょっと待ってください。
さんに、少々お聞きしたい事がありまして」
だよな。分かってたよ。
あんな風にカマかけといてこのまま返すわけないもんな。
「で、でも、急がないと…」
「さん?」
「うっ……わ、分かりました。
青柳、悪いけど先車行っててくれない?」
見事その圧に負けてしまった。
この恐ろしい笑顔に勝る人がいるならばぜひ会ってみたい。
車のキーを青柳に投げ渡した。
「…すぐ、戻って来てくださいね」
「わかってる」
そうして私は、胡散臭い金髪野郎と2人になってしまった。
「で、聞きたいことって何ですか?安室さん」
「…あの青柳って男は誰だ」
「・・・はぁ?」
あまりに思ってた質問と違いすぎて、思わず素っ頓狂な声が出た。
てっきり昨日のことについて問い詰められるのかと思ってたから、拍子抜けだ。
まぁ、こちらとしては都合が良いか。
このまま昨日のことには触れずにやり過ごそう。
「ただの部下だけど」
「ただの?にしては仲が良さそうに見えたけどな。
それも平日のこの時間に一緒に病院に来るだなんて相当だ」
「だから色々あったんだって。ほら、彼頬にガーゼしてたでしょ?
それに、2年間一緒に仕事してるんだから信頼関係ぐらいあるに決まってる」
「僕よりも?」
何その質問。
「それ、どういう答えを求めてる?」
「いや?ただ純粋に気になっただけだ。
7年の付き合いの僕とぽっと出のたかが2年ぽっちの男、はどっちを信頼してるのか」
何でちょっと喧嘩腰なんだよ。
てか、さっきから一体何を聞きたいんだよ。全くもって意図が読めない。
「自分の期待した通りの結果が返ってくるって点で言うなら、断然彼ね。私の部下はそれだけ優秀なの」
「…相当入れ込んでるんだな」
「別に、そういうんじゃない。
というか、まともに連絡取れなかった相手を信頼しろって方が無理だと思うけど?」
「……」
この件に関してはやはり何も言い返せないようだ。
ちょっと意地悪だったかな。