第30章 お茶会
「なんでもないから!ほら、早く戻らないと」
「は、はい」
そうして私は青柳の背中を押しながら早急にその場を離れようとした。
……が、
「こんにちは、さん」
私の望みは呆気なく散り、案の定捕まってしまった。
相変わらず、取ってつけたようなその微笑みがムカつく。
「……ど、ども」
「こんな所でお会いするなんて奇遇ですね。
どこか怪我でもされたんですか?」
「あ、いや、ちょっと色々ありましてあはは」
なーにが奇遇だばか。
こっちは昨日もあってんだっての。
はぁ、少し前まではあんなに会えなかったのに、最近は遭遇率高くないか?
それもタイミングが最悪だ。全く、神はつくづく意地が悪い。
「あなたこそ何しに病院へ?もしかしてまた夏風邪ですか?」
「いえ、というか今は全然夏じゃないですけどね。
実は知り合いが入院したらしくて、今日はそのお見舞いに来たんです」
ーー…“知り合い”か。
状況から考えてその知り合いとは明らかに潜入先、『組織』絡みなんだろう。
わざわざそれを言うってことは、もしかして私を釣ってる?
「あ、あのさん。
どなたですか?この爽やかなイケメンは」
若干バチッとした空気が流れる間に青柳が割って入ってきた。
ナイスタイミング。
「初めまして、安室透と言います。
喫茶店でアルバイトしてまして、さんはよくいらっしゃるお客さんなんです。ね?」
「え、ええ」
例え警察関係者の前でも、あくまで安室透で通すのね。
「ほら、前に素敵な喫茶店を見つけたって言ったでしょ?そこの店員さん」
「へぇ、さんにもこんなかっこいいお知り合いがいたんすね。
どうも、青柳拓真です」
そうして2人は、私の目の前で握手を交わした。
……なんだか、この2人の間に流れる空気も不穏だ。バチッとしたものを感じる。
え、何で?
「じゃあ、俺らは行きましょうか!さん」
青柳は私に向き直って笑顔でそう言った。
「そ、そうね、早く戻らないと」
突然の青柳からの名前呼びに少々戸惑いつつも、ナイスすぎるアシストに感服する。
流石は私の部下だ。今の私の状況を分かってらっしゃる。