第29章 桜と追憶
「……教えて」
「なら私の質問にも答えてよ。
ジョディが知っていること、何でもいいから…!」
「言えないっ……!!あなたには、何も教えられないのよ…!」
ジョディが叫んだ。
私には、か。
……やっぱり、みんな私に秘密ばっかり。
「……じゃあ、私も何も教えられない」
その後、私達の間に一切の会話はなかった。
車での時間が、途方もなく長く感じた。
ーー……ねぇジョディ。
あなたが赤井さんを大切に思うように、私にも大切に思う人がいるの。
そう、心の中で呟いた。
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「とんだハプニングだったわね。変装に使った男がスリに遭っていたなんて」
「財布を所持していなかったので、妙だとは思ったんですけどね。
まぁ、あの男の懐に入っていた妙な黒い五円玉を拝借しておいて正解でした」
「まぁ感謝してよね。
あなたがあのFBIの仔猫ちゃんに腕を掴まれた時に、彼女の袖口に仕込んだ盗聴器。ちゃんと回収してあげたから」
女性の大きかったお腹はみるみるうちに縮んでいき、顔のマスクは剥がされた。
誰にも正体を悟らせることの無い完璧な変装術。
そう、この妊婦の中身は黒の組織のメンバー『ベルモット』であった。
「それで?仔猫ちゃんからいい話は聞けたのかしら?」
「ええ、大収穫でした。意外な裏話も聞けましたしね」
そうして運転する男性の顔からもマスクが剥がされる。
もちろんその正体は“黒の組織のメンバー”である『バーボン』だ。