第29章 桜と追憶
「あぁそれと、少し気になったことがあるのよね」
「なんです?」
「あの日本警察の可愛い仔猫ちゃん。
あの子、あなたが変装だって見抜いてたみたいよ」
「いや、そんな事はないでしょう?
だってあなたは『千の顔をもつ魔女』なんですから。そんなあなたに施してもらったこの変装が見破られるわけが無い」
「だから驚いたのよ。
それにあの子、すごく似ているし」
「……似ている?」
「ヘル・エンジェルの娘によ!長女の方ね。まぁもう死んでるけど。
あなたも会ったことがあるとか言ってなかった?」
「ええ、少しだけ。
でも、そんなに似てましたかね?」
「似てるというより瓜二つだったわよ。
シェリーとも何か関係があるのかもしれないわね。
しかも、あの推理力と洞察力。
ふふ、面白い子を見つけたわ」
「そうですか?あの程度の事件でしたら僕でも簡単に解けますし、それに顔が似てることなんて珍しいことじゃないでしょう。
きっと偶然ですよ。
仮にもしシェリーと何か繋がっていたとしても、シェリーは僕がベルツリー急行で始末しています。もう関係ない」
「あら、随分と突っかかってくるのね?
もしかして、私が彼女に興味を持つことが気に食わないのかしら?」
「……まぁそうですね。
あなたほどの人があんな日本警察の飼い猫に興味を持つだなんて、随分と落ちたのだなと」
「……そのムカつく口調、どうにかしなさい」
「はは、善処します」
目に焼き付くほどに白い車は、不穏な空気を纏いながら夜の道路を走り去っていった。
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