第29章 桜と追憶
「あら、知らないの?賽銭箱の前で財布を開けちゃいけないっていう戒め。
財布の中を神様に見られると『そんなに持ってるのにそれっぽっちしか入れないのか』と怒りを買うのよ?
だから私、お参りする時は五円玉を裸でポケットに入れてるから、財布が無くなってることに気づかなかったってわけ!
まぁ、私が大量の五円玉を賽銭箱に入れるところを見たって言うなら認めてあげてもいいけど?」
「ふふ、見なくても分かりますよ?
あなたの靴紐を調べれば」
「…え」
「恐らく五円玉を束ねていたのはその靴紐。
だからあなたは現場から直ぐに立ち去れなかったんですよね?
片方の靴紐が無いために、靴が脱げてしまうから。
鈴を鳴らした後に靴紐を戻して結び直したようですけど、その靴紐を犯行に使ったのなら付いているはずです。
撲殺した時に飛んだ、被害者の返り血がね」
そして段野さんの靴紐が調べられ、被害者のものと思われる血痕が確認された。
段野さん自らの証言で、遺体のそばに置いてあった黒の五円玉3枚は今回黒兵衛に懐に入れられたものではなく、昨年同じように黒兵衛に掏られた際に入れられたものだということがわかった。
だから警察から確認を受けた時にあの五円玉を所持していたのだ。
犯行に及んだ動機は、息子さんの復讐。
昨年、黒兵衛に掏られた財布の中には車のキーも入っていたんだそう。
それが無かったせいで喘息を患っていた息子さんが車内に閉じ込められ、病院に行くのが遅れ亡くなってしまったのだという。
その復讐を果たすため、黒兵衛のことをネットで調べ、出没しそうな場所で張っていたというわけだ。
「……なぜ、財布にプリクラを?あれが貼ってなければ、あなたの財布だと分からなかったかもしれないのに」
「財布を開けばあのプリクラが目に留まるでしょ?
見せつけてやりたかったのよ、あのスリに。
あなたが盗み取ったのはお金だけじゃない。1人の小さな男の子の命だってね……」
そう話す段野さんは、涙を流していた。
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犯人は連行され、事件は無事解決。
事件に関わった残りの2人もスリの一件があるので、後日事情を伺うことになったそう。
「ねぇおじさん!おじさんって目が悪いの?」
「え?何でだい?」
そんな中、コナンくんが例の風邪を引いている男性へ話しかけていた。