第29章 桜と追憶
「確かに、こういう人混みはスリが多いですからねぇ」
ガラガラ声でそう話す男性。
……え、誰この人。
どうやらジョディ達の会話に入っていたようだ。
おばさんは男性を見るなり驚いた様子で「で、ですよね!あはは失礼しますー」と言って去っていってしまった。
「ねぇジョディ、誰?この男性」
「あぁ、この人は私と一緒にあの帝都銀行の強盗事件に巻き込まれた人よ。私に気付いて声を掛けてきたの。
なんか、この人の奥さんが私にガムテープを巻いたらしくて」
「へぇ」
そんな偶然あるんだなぁ、と話を聞きながら男性を見やる。
「どうも」と私に微笑む男性。
ーー…こいつ、ゼロだ。
見た目は全然知らない人だけど、その微笑み方といい立ち居振る舞いといい完全に私の知っているゼロだ。
そんな程度の変装で私は騙せないぞ。
てか、じゃあなぜジョディが帝都銀行の強盗事件に巻き込まれたことを知っているんだ?
ゼロはあの事件には巻き込まれていないはずなのに。
それに、そんな変装をしてこんな神社に一体何しに来たんだ?
ま、考えたってしょうがない。てかもう考えたくない。
どうせ仕事だろうし。
さっきも言った通り、公園や神社はスパイ等がよく情報交換に使う場所。それと同時に、公安が目を光らせている場所でもあるんだから。
そんなことを思いながら、私も「どうも、こんにちは」と男性に微笑み返した。
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「ああ元太くん!」
「その水飲んじゃダメですよ!」
「え?そうなのか?」
「軽く濯いで、地面に吐き出すのよ?」
「へぇ、初めて知った」
そんなこんなで私達は手水舎に来ている。
柄杓で水を掬って身と心を清める場所である。
相変わらず離れた場所で、先程の男性を交えて密談しているジョディとコナンくん。
もちろん私はその会話に入れてもらえない。
仲間はずれは悲しいぞ。
「なぁなぁ、おじさんもこの水でうがいするか?」
元太くんがゼ……男性に問いかけた。
「いや、遠慮しとくよ。風邪が移るといけないし、手はさっき清めたから」
なるほど、そのガラガラ声は風邪が原因という設定か。
その後も色々と話している様子の3人。
そして「何か分かったら、ここに連絡してちょうだい」とジョディが連絡先を男性へと渡した。
やっと話が終わったようだ。