第29章 桜と追憶
___『ホラ、あの銀行で強盗事件があっただろ?あの事件を振り返るニュース映像に知人が映っていたから、もしかしたらあの銀行を利用してるんじゃないかと来てみたんだ。
もしそうなら近辺に住んでいるはず、会えたらラッキーだと思ってね』
『じゃあ、その人と会えなかったの?』
『いや、偶然見かけたんだが、残念ながら人違いだったようで声は掛けなかったよ。
……昔からよーく知った顔だから、見間違えるわけないからね』____
この会話から察するに、帝都銀行にいたあの火傷の男は沖矢さん(赤井さん)にとっては想定外。
“偽物”ということになる。
その偽物の正体を探るために、沖矢さんはあの日米花デパートに来ていたというわけか。
ではなぜ赤井さんの偽物が出没したのか?
その正体は一体誰なのか?
そもそも、なぜ赤井さんは死んだはずなのに沖矢昴となって生きているのか?
なぜそれをFBIの仲間であるジョディらは知らないのか?
そういえば、同じく米花デパートの時にキャメルさんが言っていた『危険』や『ポルシェ356A』についても未だに分かっていない。
謎が謎を呼んで謎ループに入ってる。
最近こんなのばっかり。
あーー嫌だ嫌だ。
「さん?」
「何だか難しい顔をしているようですけど、大丈夫ですか?」
「眉間にすっげぇシワ寄ってるぞ」
ずっと頭を悩ませる私を心配したように、子供たちが声をかけてきた。
「大丈夫よ!
ごめんなさい、ちょっと考え事してて」
「こんな綺麗な桜の下で、そんな悩ましい顔は似合わないんじゃない?」
「そ、そうよね。気を付けるわ」
哀ちゃんにまで言われてしまった。
ごもっともです。
すると突然「スリよー!スリがいるわよー!」という叫び声が聞こえてきた。
どうやら、おばさんが叫びながら人混みを縫って走っているようだ。
そしておばさんは、コナンくんと話をしているジョディにぶつかってしまった。
「だ、大丈夫ですか!」
そう言いながら子供たちと一緒に彼らの元へ駆け寄る。
「おばさん、大丈夫?」
「走っちゃ危ねーぞ!」
「ご、ごめんなさいねぇ。
さっき私のカバンに手を入れてる人がいて慌てちゃって…」
勢いで倒れてしまったおばさんを支えて起き上がらせる。